
シャルル・ルクレールはモントリオールでチームメイトのカルロス・サインツよりも低いダウンフォースの新しいリア・ウイングを使用していたが、これは単にルクレールに4基目のパワーユニットを搭載してグリッド後方からオーバーテイクするための補助を与える以上の意味があった。F1技術専門家であるマーク・ヒューズが、ジョルジオ・ピオラの技術イラストの助けを借り、フェラーリの大局的な計画を読み解く。
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットでルクレールのマシンで使用されたウイングは、十分な数のサンプルが製造されれば、実際にはほとんどのサーキットで標準的な部品になる予定である。
これはバクーで走った極端な低ダウンフォース・ウイングとはまったく別の種類のウイングである。ルクレールがモントリオールで使用したのは、標準ウイングの低ダウンフォース/ドラッグ版で、バクー用ウイングの直線的な主翼と非常に小さな下面エリアを除いたものだ。
モントリオールでは、このウイングは一つのサンプルしかなく、ルクレールがそのウイングで走行することになった。もし、2台分のスペアがあれば、2台とも搭載していただろう。これは、シーズン序盤のレースで、ライバルのレッドブルの方がストレートエンドのスピードが速いというパターンに、フェラーリが対応するためだ。この新型ウイングでは、フェラーリはドラッグの低減と引き換えに、総ダウンフォース(トータルダウンフォース)をわずかに犠牲にすることを覚悟している。そのため、より空力学的に効率の高いウイングとなっている。

ルクレールのウイングのフラップは縁が直線状で、サインツが使用した標準ウイングのように上向きに曲がっていない。主翼は外側の上向きの曲がりを維持しつつ、中央のくぼみを減らし、下面と上面の表面積の差を小さくしている。このためドラッグとダウンフォースは小さくなるが、フェラーリは標準ウイングと比較して、ドラッグ低減によるラップタイムの短縮が、ダウンフォース低減による損失を上回ると感じている。
フェラーリのエンジニア、クラウディオ・アルベルティーニは、モントリオールにおけるウイング選択の背景について「サンプルがひとつしかなかったからだ。カルロスのマシンに搭載してリスクにさらすわけにはいかなかった。もし予選でウイングが破損し、別の仕様のウイングに交換した場合、彼はピットレーンからスタートしなければならなくなる。シャルルの場合は、いずれにせよパワーユニットのペナルティで後方からスタートするので、より静かでリスクの少ない予選にすることができた」と説明した。
「オーストラリアやマイアミで使われたものと同じような平均的レベルのダウンフォースだが、より低いドラッグを得るために効率に取り組んでいる... ライバルを見て改善できるところに気づいたり、トップスピードから改善の余地があるとわかったりすることも事実だ」
この新ウイングは上部フラップが狭くなっており、改良された下部ビームウイングと連動している、新主翼のフラップは、標準ウイングのように上向きに曲がっておらず、縁が直線的なフラップを採用している。主翼は標準ウイングの外側曲線を踏襲しているが、中央部はそれほど劇的に下に曲がっていない。

画像の円内はルクレールのリア・ウイングのビームウイング - 左図はバクー、右図はカナダ:カナダでのルクレールのリア・ウイングに合わせた新しいビームウイングは、上部フラップの幅が狭くなっているのが特徴だ。主翼下面の面積が小さくなったことで、ビームウイングの主な仕事であるディフューザーから出る気流を送り込む必要性が低くなる。これがドラッグ低減に貢献する。
このため、下面の面積が小さくなり、上面と下面の圧力差が小さくなる。下面を流れる気流は、上面を流れる気流と合流するまでの距離が短いため、それほど速く流れる必要がない。これにより、ダウンフォース(悪いこと)とドラッグ(良いこと)は減少する。
効率化の目的は、ダウンフォースの減少によって失われるタイムよりも、ドラッグの減少によって得られるタイムの方が多いことであり(ただし、これはトラック・レイアウトによって異なる)、フェラーリはこのウイングでそれを達成したと感じている。

フェラーリがバクーで使用した極端な低ダウンフォース・ウイング(上図)は、ルクレールがモントリオールで使用したウイングとは系統が異なる。極端な低ダウンフォースのバクー用ウイングの直線的な縁(ストレートエッジ)をもつ主翼ではなく、標準ウイングの曲がった主翼中央部が残されている。
-Source: The Official Formula One Website
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