F1技術解説:メルセデスの直線ペースの改善は、パワーの増加なのか、あるいは他の何によるものか?

メルセデスは、最近のレースで、レッドブルに対してストレートで速くなったが、これはパワーの増加によるものか、精巧なエンジニアリングによるものなのだろうか? マーク・ヒューズが、ジョルジオ・ピオラの技術イラストとともに、この話題を掘り下げる。

6月のフランスGPで、レッドブルはメルセデスよりも低いウィングを使い、ストレートでの速さと1周の速さを両立させることができた。当時、トト・ヴォルフは「我々があのように低いウィングを使えば、ストレートで短縮できるラップタイムよりも、コーナーで失われるラップタイムの方が大きくなるだろう」と述べていた。レッドブル・ホンダRB16Bは、総合的な空力学的パッケージとして、優れているように見えた。

2週間前のイスタンブールで、メルセデスはレッドブルよりもストレートで圧倒的に速く、ラップタイムもコンマ数秒速かった。メルセデスが7月のイギリスGPでパフォーマンス的に前進して以来、何度かこのような状況になっている。

これは明らかにパワーの増加によって説明できるだろう。実際、クリスチャン・ホーナーとヘルムート・マルコは、そのように考えている。トルコでホーナーは「メルセデスは、彼らが使っているダウンフォースにしては、ストレートでものすごく速い。シルバーストン以来、それに気づいている。何が奇妙なことがある」と述べた。

2021年F1トルコGPのストレートでのメルセデスのペースを他チームと比較したグラフ(金曜フリー走行のデータを使用)
トルコのストレートでのメルセデスのペースを他チームと比較したグラフ(金曜フリー走行のデータを使用)

メルセデスは、パワーの増加はないと主張している。この違いは、メルセデスがシルバーストン用に実施した、メルセデスW12の最後の大規模開発である空力学的アップグレードによるものだと推察される。しかし、空力学的アップグレードがこれほどまでに劇的な直線でのパフォーマンスの向上をもたらすことは可能なのだろうか?

おそらく可能だろう。メルセデスが、ディフューザーの劇的な失速を得ることで、低傾斜角(ローレーキ)コンセプトを最大限活用することができれば。

2021年07月22日
ハミルトンの優勝に貢献したメルセデスの2021年最後の大規模アップグレード、イギリスGP:F1技術解説

各チームは、15年以上前から直線スピードを高めるために、ディフューザーを意図的に失速させている。ディフューザーを装着したアンダーフロアは、マシンの下の圧力が上部にある大気よりも低くなるため、ボディにダウンフォースがかかる。これは、低傾斜角(ローレーキ)のマシンよりも高傾斜角(ハイレーキ)の方が効果的となる。

しかし、マシンの速度が上がり、アンダーフロアおよびリアウィングからのダウンフォースが速度の2乗で増加すると、マシンのリアがサスペンションに押し付けられ、フロアの傾斜角(レーキ角)が小さくなる。速度があがっているので、ダウンフォースは発生するが、フロアの角度が小さくなれば、フロアの傾斜角が最大のときほどダウンフォースは劇的に増加しない。

F1マシンの速度が上がれば、リアは押し下げられる
F1マシンの速度が上がれば、リアは押し下げられる。

マシンのリアを十分に低くすることができれば、最終的にディフューザーは失速し、フロアからの低圧エリアを誘発することができなくなる。つまり、マシンのダウンフォースは大幅に減少するが、それに伴いドラッグも減少する。これにより、ダウンフォースを必要としないストレートでのスピードが増加する。

これは非常に複雑な操作であり、非常に強力なシミュレーションツールが必要となる。失速ポイントはトラック毎に調整可能でなければならず、最速コーナーではその失速ポイントに近づいてはならない。ダウンフォースはストレートでは必要ないが、コーナーでは確実に必要である。

ディフューザーの静的な傾斜角度、つまりそのパワーは規約によって制限されている。高傾斜角のマシンは、フロア全体の角度を大きくすることで、事実上、その傾斜角度を増加させることができる。高角度のディフューザーは、リアの車高が比較的高い場合に、最もよく機能する傾向がある。

低傾斜角のメルセデスでは、ディフューザーの角度を低くすると、低い車高でもパフォーマンスがよくなる傾向がある。しかし、このように低い車高では、失速しやすくなる。

オーストリアGP(上)とシルバーストン(下)におけるメルセデスのバージボード比較:2021年F1
オーストリアGP(上)とシルバーストン(下)におけるメルセデスのバージボード比較。

メルセデスのシルバーストーンでのアップグレードは、フロアのフロントコーナー周辺に大きな変化をもたらした。バージボードを再設計し、フロアのエッジを再形成し、デフレクターの角度を変えたので、フロアのフロントコーナーから空気を引き出そうとしていることが示唆される。

マシンに当たる空気の量は限られており、空気の一部はマシンの周囲および下を通過する。これらの変更は、その分離の割合を変える可能性がある。

これらの変更は、低速でのディフューザーの失速を誘発することができたのだろうか? 低速で同じ失速ポイントに到達することができれば、ドラッグを減少させるだろう。その場合、より大きなウィングを使って同じ直線速度を得るか、同じサイズのウィングで直線速度を増加することができるだろう。

これにより、ディフューザーの失速がトラック毎に調整可能になり、その影響を受けやすいトラックでは、目を見張るほどの直線速度になるかもしれない。

しかしこれは理屈に過ぎない。単にパワーが増加しただけかもしれない…

-Source: The Official Formula 1 Website
メルセデスW12技術解説 関連記事