
ルイス・ハミルトンはイスタンブールで11番スタートから順位を上げていったが、DRSが有効になっていれば、もっと早く、もっと効果的だったかもしれなかった。しかし、湿ったコンディションのトラックでは、スリックタイヤを装着できる状態ではなかった。レースディレクターは、スリックタイヤを装着できるほどトラックが乾くまで、DRSを有効にしないことになっている。
ハミルトンのマシンに採用されたリアウィングは、ポール・ポジションからスタートするチームメイトのヴァルテリ・ボタスのウィングに比べ、ダウンフォースがやや高かった。
下図からもわかるように、上部フラップが、やや上に延び、中心にある支柱(パイロン)の周囲でボタスのウィングと同じレベルまで下がって、特徴的な「ハート」型をしている。実際、これは前戦のソチとは逆の選択である。ソチでは、ボタスの方が高ダウンフォースだった。

イスタンブールでは、ボタス(上図)とハミルトンのリア・ウィングの選択がソチとは逆だった。ハミルトンは高ダウンフォースのウィング(上部フラップがリア・ウィングの外縁から高く立ち上がり、中央に目立つ凹みがある)を選んだ。ボタスはより平坦で、低ダウンフォースのウィングを搭載した。
メルセデスとハミルトンが、今シーズン初めて規約数以外の内燃機関を搭載することで、10番降格ペナルティを受けたグリッドからスタートするのがわかっているのに、高ダウンフォースのウィングを選ぶのは、直感に反するように思える。通常、このような状況であれば、直線スピードや、オーバーテイクを助けるために、低ダウンフォースが選ばれると予想される。しかし、メルセデスの選択には非常にしっかりした論理があった。
イスタンブール・パーク・サーキットの最初のDRS検出ポイントの位置は、ターン9の手前である。マシンはここでブレーキをかけるが、超高速コーナーであるターン8を抜けたばかりだ。コーナーが高速になればなるほど、追従するのが難しくなり、マシンの間隔が広くなる傾向がある。
ウィングを大きくすれば、ターン8で先行マシンに近づき、DRS検出ポイントで1秒以内に近づく可能性が高まる。これによって、周回の終わりにあるタイトなターン12~14の連続コーナーまでのDRSゾーンで、このサーキットでの最高のオーバーテイクのチャンスに備えることができる。
DRSゾーンさらに、2枚のウィングのフラップ面積の差が小さいため、DRSを使わないフリーエアでの走行におけるハミルトンのストレート終了時のスピードは低下するが、DRSによるブーストは大きくなるので、DRS走行中のストレート終了時のスピードの差は無視できるほど小さくなる。
イスタンブール・パークは2つのDRSゾーンがある。
・1番目のゾーンの検出ポイントはターン9の82m手前、活性化ポイントはターン11の82m手前。
・2番目のゾーンの検出ポイントはターン13の33m先、活性化ポイントはターン14の69m先。

DRS検出ポイントは、ターン9の直前にある。しかし、ハミルトンにとって不運なことに、DRSが使用可能になることはなかった。
つまり、DRSが使用可能になっていれば、ルイス・ハミルトンは追い上げにおいて両方の長所、つまり、DRS検出ポイントに入るためのコーナーリング・スピードと、DRSモード時のストレート終了時のスピードを兼ね備えることができただろう。
さらに、ダウンフォースが大きくなればなるほど、リアタイヤを守ることができる。先週のイスタンブールでは、リアタイヤは非常に高い劣化率に悩まされていた。後方から追い上げれば、スタートから先頭を走っているマシンに比べ、タイヤは必然的に酷使されることになる。
ポール・ポジションを獲得したヴァルテリ・ボタスは、スタートを決めれば、DRSの恩恵を受けないと予想されたし、実際にそうなった。だから彼は低いウィング・レベルによるストレートラインの助けが必要だった。
もちろん、実際のところ、湿ったコンディションだったので、ハミルトンはDRSの恩恵を受けなかった。最初のスティントの大半は、角田裕毅のアルファタウリの後ろを走り、約12秒をロスした。このときこそ彼にはDRSが必要だった。
一方、メルセデスは、わずかに異なるこのフロント・ウィング(下図、上図は標準ウィング)を、金曜フリー走行のハミルトンのマシンで試した。

このウィングは、今シーズンすでに数回のフリー走行で使用されているが、今のところレースには使われていない。上部ラップが外側の端でよりカーブしているため、フロント・タイヤ周囲のアウトウォッシュ気流が強化されると思われるが、直接的なフロントのダウンフォースは減少する。
来年は新規約が導入されるまで、現行マシンでのレースではあと6戦となった。タイトル争いが最終段階に入り、チャンピオンシップ争いをしているチームがマシンをどれだけ開発するか、注目される。
-Source: The Official Formula 1 Website
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