F1技術解説:昨年のトルコGPでメルセデスが予選でペースから5秒遅れだった理由

F1はイスタンブールに向かうので、昨年のイベントの風変わりな状況を思い出すよい機会である。昨年のトルコGPでは、メルセデスはポール・ポジションを獲得したランス・ストロールよりも予選で5秒遅く、レースではルイス・ハミルトンがトップより5秒遅れだったが、最終的に、2位に30秒以上の差をつけて優勝した。

これはタイヤ・パフォーマンスと温度閾値に関係していた。今週末にも同じようなことが起こる可能性があるだろうか? レースが数週間早く開催され、ドライになる可能性が高く、昨年のように舗装から10日後ではなく1年後なので、昨年のようにはならないかもしれない。



しかし、そういった2020年の状況は、タイヤが機能するメカニズムを明らかにした。タイヤは、レース週末のさまざまな段階におけるマシン同士のパフォーマンスの違いの理解に常に関わっている。

タイヤが正常に機能し始めるためには、タイヤの温度が機能範囲(通常90~120℃)にあることが必要である。通常であれば、ピットからのアウトラップで、コーナリングとブレーキングの負荷がかかり、1回目のアタックを開始する頃には、タイヤは理想的な温度になるか、近づいている。

しかし、路面のグリップがなく、コーナリングやブレーキングの負荷をうまくタイヤにかけられないと、その閾値から外れたままになってしまう。そして、グリップ不足のタイヤは十分な負荷をかけられず、冷えた状態が続くので、グリップが得られなくなる、という悪循環に陥る。

2020年11月15日 <動画15本有>
F1トルコGP決勝 ルイス・ハミルトン優勝で7度目のF1ワールドチャンピオン!
シャンパンファイト:ハミルトン、ベッテル、ペレス
シャンパンファイト、ルイス・ハミルトン、セバスチャン・ベッテル、セルジオ・ペレス:2020年F1トルコGP

メルセデスのアンドリュー・ショヴリンは昨年のレース後「タイヤとタイヤ温度の問題は、タイヤが冷えている場合、2℃か3℃の差で、タイヤが機能してグリップを生み出し、温度が上がり始めるか、冷えたままでゴムがプラスチックのようになり、グリップがなく、どんどん冷えていくかの違いが生まれる」と説明した。

「あるフェーズから別のフェーズに移行するのに、多くのことをする必要はない」

この冷たい「プラスチック」状態のタイヤと、適切な温度のタイヤとのラップタイム差は、コンマ数秒どころではなく、数秒単位になるだろう。わずかなインプットにより、ゴムが温度閾値を超えると、突然スイッチが入る。

徐々に大きくなるのではなく(段階的な目盛りではなく)、スイッチのようなものなのだ。そのため、重量配分やサスペンションのジオメトリ、空力学的性能、ホイールリムへのブレーキ温度の伝導方法など、ほんのわずかな違いが、ポール・ポジションを争うか、昨年のメルセデスのように5秒以上もペースが落ちるかの違いを生み出すのだ。

2020年11月14日 <動画8本有>
F1トルコGP予選 ランス・ストロールPP フェルスタッペン2位

このパターンは、予選でも決勝レースでも、そしてウェットタイヤやインターミディエイトタイヤでも繰り返された。レーシング・ポイントは、タイヤの温度閾値を、素早く、通常1周以内に越えることができた。

レッドブルは、ゴムのスイッチを入れるのに2、3周必要としていた。しかしメルセデスは、ペースの1秒遅れになるまでに7周かかった。予選では、アタック前に7周も走る余裕はない。しかし、最終的にレース当日、ハミルトンのタイヤはついにその魔法の温度スイッチ・ポイントに到達できた。

その時点から、彼はトラックでほぼ常に最速になった。さらに、当初の低速周回によってタイヤのゴムをあまり消費しなかったため、レーシング・ポイントとレッドブルという上位陣よりもピットストップを1回少ないレースをすることができた。

タイヤのパフォーマンスが温度によって大きく変わる理由を理解するためには、タイヤがグリップを発揮するメカニズムを知る必要がある。これは、スリック、インター、ウェットのすべてのタイヤに当てはまる。グリップには、タイヤの接地面が路面をつかむ「メカニカルグリップ(機械的グリップ)」と、タイヤが分子レベルで路面と結合する「ケミカルグリップ(化学的グリップ)」がある。

昨年のトルコでの予選では、ハミルトンはタイヤを適切な機能範囲にすることができなかった。
昨年のトルコでの予選では、ハミルトンはタイヤを適切な機能範囲にすることができなかった。

ゴムは粘弾性があるため、負荷に対して直線的に反応しない。ある時点までは、コーナリング負荷のエネルギーを受け止め、反対方向に跳ね返すことで反応する。

この跳ね返す作用による抵抗がグリップを生み出す。その負荷/反応メカニズムが起きる速度を、接触頻度という。

軟らかいコンパウンドは、路面との化学的結合が強いので、ある時点までは、このプロセスをさらに強めることができる。そのコンパウンドに対して負荷が大きくなりすぎると、接触頻度が、負荷を受け止めるゴムの能力を圧倒してしまう。つまり、素早く曲がらなくなるのだ。

したがって、より大きな負荷がかかるトラックでは、硬いコンパウンドが必要になる。タイヤが負荷を受け止めると、エネルギーが吸収され、熱が発生する。タイヤの温度が高くなると、ゴムは軟らかくなる。しかし接触頻度が増えると、ゴムは硬くなる。

昨年のトルコGPで、ランス・ストロールは好調で、タイヤを機能させることができ、初ポール・ポジションを獲得した
昨年のトルコGPで、ランス・ストロールは好調で、タイヤを機能させることができ、初ポール・ポジションを獲得した。

つまり、ふたつのメカニズムが相反する方向に働くので、コンパウンドと接触頻度が釣り合うような、温度とコンパウンドの軟らかさの理想的な組み合わせであるスイートスポットが存在する。これは「ガラス転移点」と呼ばれ、タイヤ・エンジニアがタイヤを維持しようとする温度である。

路面に油があれば、接触頻度が下がり、温度が上がらないので、タイヤは硬いままで、比較的弾性がなく、化学的結合も機械的グリップのメカニズムも発動しない。

これらのメカニズムは常に起きているが、昨年のイスタンブールのように極端なコンディションでは、それがわかりやすかった。今週末のトラックでは何が起きるだろうか…

-Source: The Official Formula 1 Website