F1技術解説:低ドラッグのモンツァでマクラーレンがショッキングな1-2フィニッシュを達成した理由とは

モンツァを制するには、ドラッグとダウンフォースが重要な要素になる。では、マクラーレンがどのようにして完璧なバランスを見つけ、日曜日のイタリアGPでセンセーショナルな1-2フィニッシュを達成したのだろう? マーク・ヒューズがジョルジオ・ピオラの技術イラストとともに説明する。

イタリアGPは、ドラッグ(空気抵抗)とダウンフォースの究極のトレードオフがどんなものか、そしてメルセデス、レッドブル、マクラーレンという最も速い3台のマシンにどのような違いがあるのかという研究発表だった。

モンツァの長いストレートは、低ドラッグがラップタイムに貢献する。抵抗係数(CD:ドラッグの指標)が1ポイント削減するごとに、モンツァでは1周あたり0.09秒の短縮の価値があるが、ハンガリーでは、僅か0.038秒しか短縮できない。

言い換えれば、モンツァはハンガロリンクに比べ、ドラッグレベルに対して約2.4倍敏感なのだ。バルセロナに比べると、モンツァはドラッグに対する反応が約1.6倍である。

したがって、このサーキットは、カレンダーの他のサーキットでは見られないような、独特の空力学的ソリューションとリア・ウィングが必要になる。ダウンフォースがドラッグを引き起こすが、異なる速度範囲、マシンの姿勢、マシンの設計などによって、ダウンフォースを生成する方法は無数にあるため、ダウンフォースとドラッグの関係は直線的ではない。

ダニエル・リチャルド(マクラーレン)優勝!:2021年F1イタリアGP
モンツァはドラッグに非常に敏感で、すべてのチームがさまざまな方法で取り組んでいる。



ダウンフォースのレベルを示す、最も明らかな証拠はリア・ウィングだけである。マシン自体は、ドラッグとダウンフォースの間のトレードオフがそれぞれ異なっている。チームが選ぶ目標効率は、カレンダーの全トラックに共通する要求に基づいている。これらをどの範囲に設定するかは、予想されるエンジン出力と、どの程度のダウンフォースが生成されるかによって決まる。

つまり、本来はボディとアンダーボディから大きなダウンフォースを生成するマシンは、同じ総ダウンフォースを得るために、他のマシンほど大きなリア・ウイング面積を必要としない。これは典型的なレッドブルの例である。しかし、それはあくまでも通常のサーキットの範囲内での話だ。モンツァのトラックでマシンを走らせると、高ダウンフォースのマシンが究極のラップタイムを実現するために、ダウンフォースを失うことなく十分なドラッグを低下させることができないかもしれない。

モンツァでは、メルセデスのような低傾斜角(ローレーキ)マシンは、リア・ウイングの面積を通常のトラックよりも小さくすると、レッドブルよりもはるかに大きな効率を得ることができる理想的な構成になっている。つまり、理想的なドラッグ/ダウンフォースのトレードオフがドラッグの削減に有利なトラックでは、一定のウイング面積を削減した場合、メルセデスの方がレッドブルよりもダウンフォースの損失が少ないのだ。

低ドラッグよりもダウンフォースが重視される通常のトラックでは、一定レベルのウィング面積を削減してもより大きなダウンフォースを維持できるのは、レッドブルである。

金曜日のモンツァにおけるメルセデスW12(上)とレッドブル・ホンダRB16B(下)のリアウイング。レッドブルのウイングのスプーン状の輪郭がわかる:2021年F1イタリアGP
金曜日のモンツァにおけるメルセデスW12(上)とレッドブル・ホンダRB16B(下)のリアウイング。レッドブルのウイングのスプーン状の輪郭がわかる。


シーズン序盤のポール・リカールでは、まさにその通りだった。しかしモンツァでは、レッドブルはドラッグを十分削減できなかった。リア・ウィングはスプーン状で、メイン・プレートの中心部の面積が、外縁よりも大きい。さらに、フラップも同様のスプーン状の輪郭をしており、極めて低い入射角(つまり非常に平坦)になっている。

レッドブルでは、メインプレートとフラップの外側の両端が先細になっていて、最もドラッグの大きい部分が削除されているにもかかわらず、見た目には、メルセデスやマクラーレンよりもダウンフォースが高いようである。メルセデスやマクラーレンはより従来型で、メインプレートとフラップが直線的で、通常のトラックよりも浅いだけであるが、レッドブルの中央部分よりもはるかに浅い。

モンツァでは、レッドブルがライバル2台のようなリア・ウイングを使用した場合、ダウンフォースの損失が大きすぎて、ベストのラップタイムを達成できないだろうと推測される。レッドブルは、ドラッグ/ダウンフォースレンジ(範囲)の、この部分における効率がよくないのだ。

レッドブル・ホンダRB16Bのスプーンウィングのモンツァ仕様(上図の上)と、高ダウンフォースのスパ仕様(上図の下)の比較。スパのFP3では、モンツァに備えてモンツァ仕様のウイングが試された。メインプレートとフラップの両方にスプーン部分を設けることで、ダウンフォースを発生させる大きなエリアを確保しつつ、最も大きなドラッグを生成する外側部分を大きく減らすことに成功している:2021年F1イタリアGP
レッドブル・ホンダRB16Bのスプーンウィングのモンツァ仕様(上図の上)と、高ダウンフォースのスパ仕様(上図の下)の比較。スパのFP3では、モンツァに備えてモンツァ仕様のウイングが試された。メインプレートとフラップの両方にスプーン部分を設けることで、ダウンフォースを発生させる大きなエリアを確保しつつ、最も大きなドラッグを生成する外側部分を大きく減らすことに成功している。


メルセデスは、面積の合計がレッドブルよりも小さく見えるウィングを使っているだけでなく、低傾斜角(ローレーキ)のおかげで、(特にブレーキング時やシケイン通過時の低速において)有効なフラップ角度をレッドブルに比べて下げることができる。

メルセデスは、これほど低いドラッグ・レベルにおける効率に関して、レッドブルよりもかなり満足していた。そして金曜予選では、後続に0.4秒差をつけてフロントローを独占した。



直線的なメインプレートとフラップのおかげで、メルセデスのリア・ウィングはレッドブルのウィングに比べ、はるかにオーソドックである:2021年F1イタリアGP
直線的なメインプレートとフラップのおかげで、メルセデスのリア・ウィングはレッドブルのウィングよりも、はるかにオーソドックである。


しかしモンツァでは、マクラーレンは特にスイートスポットだったのかもしれない。その理由のひとつは、レッドブルの高ドラッグレベルが異例なほど悪影響を与えたからである。

最終的なラップタイムでは、マクラーレンはメルセデスにいつも以上に近づくことはできなかったが、レッドブルが苦労したおかげで、マクラーレンは2番目に速いマシンとして争っていた。そして、ランド・ノリスとダニエル・リチャルドは、マックス・フェルスタッペンの金曜の予選タイムと事実上並んでいた。

マクラーレンMCL35Mのリア・ウィングは、メルセデスと同様に、レッドブルのリア・ウィングに比べて直線的なプレートと浅い中央部が特徴だ:2021年F1イタリアGP
マクラーレンMCL35Mのリア・ウィングは、メルセデスと同様に、レッドブルのリア・ウィングに比べて直線的なプレートと浅い中央部が特徴だ。


誰もがフリーエアでDRSを使える金曜予選を調べると、ダウンフォースが依然として重要なセクターがひとつだけあることがわかる。それはセクター2であり、ここではメルセデスがレッドブルやマクラーレンよりも速かった。

一方、低ドラッグが重要なセクター1では、メルセデスとマクラーレンは、タイムが非常に接近していたが、フェルスタッペンは12番だった。同様に低ドラッグが重要となるセクター3では、マクラーレンは1番と2番タイムだった。ヴァルテリ・ボタスのメルセデスが3番、フェルスタッペンは14番だった。マクラーレンは、3チームのなかで、最もドラッグ(空気抵抗)が小さいように見えた。

さまざまなスピード・トラップにおけるマシンの速度を調べると、これらのタイムがどうやって達成されたかがわかる。

スタート/フィニッシュラインを通過する速度は、パラボリカの出口速度とドラッグの影響を受けるため、ダウンフォースとドラッグのバランスが重要になる。さらに数百メートル進んでシケインのブレーキングが始まる前は、ドラッグが支配的な要素となる。(パワーが同等と仮定すると)スタート/フィニッシュラインからスピード・トラップまでの間にどれだけの速度が得られるかは、相対的なドラッグレベルを示す一般的な指標となる。

マクラーレン メルセデス レッドブルの速度比較:フィニッシュラインとスピード・トラップ:2021年F1イタリアGP
速度比較:フィニッシュラインとスピード・トラップ


メルセデスとマクラーレンは、この2つのポイントの間で時速23kmの速度を上げている。レッドブルはわずか時速18kmだった。興味深いことに、スタート/フィニッシュラインでは(パラボリカの出口速度が速いことを反映して)レッドブルはメルセデスよりも速かったが、スピード・トラップの通過速度が時速6km遅かった。マクラーレンは2チームよりもスタート/フィニッシュで速く、スピード・トラップ通過時もそのアドバンテージを維持していた。

では、セクター3のタイムが、マクラーレンが最もドラッグが少ないことを示しているとしたら、ストレートのこの2地点で、メルセデスと同じ時速23kmだったのはなぜだろう? マクラーレンが、どちらの地点でもメルセデスよりも時速3km速く走っていたことがヒントになる。ドラッグ(空気抵抗)は速度の二乗である。

メルセデス レッドブル マクラーレンのマシンのパフォーマンス:2021年F1イタリアGP
マシンのパフォーマンス


つまり、2台のマシンのドラッグが同じであれば、最初に速度が速かった方が、最初に速度が遅かった方よりも加速しないことになる。しかし、マクラーレンはメルセデスよりも速い速度でスタートしたにもかかわらず、メルセデスと同じように加速した。これもドラッグが低いことを示している。

第2セクターのタイムを見ると、メルセデスが最もダウンフォースが大きいことを示唆している、その後はマクラーレン、レッドブルの順になっているが、マクラーレンはパラボリカでのダウンフォースとメルセデスよりも低いドラッグを兼ね備えていたため、スプリントでもグランプリでも、メルセデスはマクラーレンを追い越すことができなかった。それが1-2フィニッシュというマクラーレンの素晴らしい結果の基礎になったのだ。
2021年F1イタリアGP全結果

-Source: The Official Formula 1 Website
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