ディファレンシャルとは何か、そして欠陥のあるディファレンシャルがフェルスタッペンのバーレーン優勝を奪ったのか?:F1技術解説 - 2021年F1バーレーンGP

マックス・フェルスタッペンは、バーレーンGPの予選でルイス・ハミルトンにほぼ0.4秒差をつけてポール・ポジションを獲得したが、レース日にはハミルトンに負けた。メルセデスは巧妙な作戦を採用し、ハミルトンがフェルスタッペンより前に出たが、フェルスタッペンは、ディファレンシャルの問題でレース中のペースが悪くなったと述べた。今週の技術解説では、マーク・ヒューズがディファレンシャルとは何か、そしてその問題がどのようにしてフェルスタッペンの優勝の可能性を損なったかを説明する。

レッドブルのヘルムート・マルコによると、シーズン開幕戦バーレーンGPの最初のスティントでは、フェルスタッペンはディファレンシャル・トラブルにより1周あたり最大0.3秒遅くなったという。そのため、フェルスタッペンはメルセデスに対する予選のペース・アドバンテージを使って、ルイス・ハミルトンのアンダーカット範囲から抜け出すことができず、結局レースに負けたのだった。

では、ディファレンシャルとは何をするものであり、どのようにしてフェルスタッペンのレースに深刻な影響を与えたのだろうか?

ディファレンシャルは、リアホイールの間のトランスアクスル内に収められており、(どのコーナーでも)内側と外側のリアホイールが受ける駆動の比率を決定する。同じ回転をするためには、内車輪(左カーブの場合は左リア)は、外車輪よりも回転数を少なくする必要があるが、ディファレンシャルは、相互に接続された歯車を介して、各ホイールに適切に分けるメカニズムである。

しかし、ディファレンシャルは、より攻撃的な方法で設定することもできる。摩擦を使用して各ホイール間のトルク分割を変更し、実際にマシンの回転を助けたり、ブレーキング中のマシンを安定させたりする。

ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンのバトル:2021年F1バーレーンGP
ハミルトンとフェルスタッペンのバトル:2021年F1バーレーンGP

完全に「開放された」ディファレンシャルは、コーナーの弧に合わせて駆動力を分割する。完全に固定されたディファレンシャルは駆動力を分割しないので、必要以上の駆動力を与えられた内車輪は、路面との摩擦によって無理やり回転させられる。実際に車の回転を助けるのは、外車輪の駆動トルクである。

完全開放と完全固定というふたつのポイントの間は無限範囲である。F1ではディファレンシャルを電気油圧制御を採用しているため、ハンドルのスイッチを介して、抵抗を設定値間で変化させることができる。フリクションプレート(摩擦板)に対する油圧を変化させることで、摩擦抵抗を制御するのだ。

完全に開放されたデフ(ディファレンシャル)は、各ホイールの速度(回転数)が違っていても、どのホイールにも同じトルクを与える。最終的に、内車輪がスピンするので、デフは両ホイールへのトルクを遮断する。これによって、コーナーでのパワーの適用が穏やかになるが、トラクション制限が低く、非常にスムーズで簡単に制御できるホイールスピンが起きる。

利用できるトラクションがあまりない低グリップの路面では、よいコントロールが得られるだろう。しかし、固定されたデフでは、内車輪へのトルク伝達を制限することで、外車輪により多くのトルクを伝え、それによって加速のためのトラクションを提供する。こうすることで、マシンの回転を助けるのだ。しかし、トラクションがなくなれば、もっと攻撃的になる。

一般的に、使えるグリップが増えれば増える(高ければ高い)ほど、ドライバーが使えるデブロックの度合いが大きくなる。そのため、軟らかいタイヤとゴムが付着したトラックでは、ドライバーはより素早く方向転換をするために、デブロックを使いたがる。

メルセデスW12は予選ではレッドブル・ホンダRB16Bに後れを取ったが、日曜日には形勢は逆転した:2021年F1バーレーンGP
メルセデスW12は予選ではレッドブル・ホンダRB16Bに後れを取ったが、日曜日には形勢は逆転した:2021年F1バーレーンGP

フェルスタッペンは、フォーメーションラップの早い段階から、内車輪がターン1-2でスピンすることに気づいていた。そのため、彼はデフの固定度(ロック度)を高めに設定して対応した。ハンドルの表示を見れば、彼の選択がわかるが、マシンの挙動は変らなかった。したがって、彼は低速コーナーではドライビングを合わせ、あまり攻撃的ではない方法でパワーを適用した。

これがラップタイムのロスにつながったが、スピンする内車輪もタイヤ表面の温度を上昇させた。

パフォーマンスの熱劣化率の高いサキールのようなトラックでは、ドライバーは、リアタイヤの温度に合わせて走らなければならない。単に全開で走ることはできない。そんなことをすると、ひどく早く、しかも何度もピットインすることになっただろう。ホイールスピンでタイヤ温度が上昇したので、フェルスタッペンはリアタイヤの温度が上昇し続ける暴走状態にならないようにするため、通常よりも保守的に走らなければならなかった。

だからこそ、予選ではレッドブルにかなわなかったメルセデスに乗るハミルトンが、フェルスタッペンについていき、最初のピットストップ・ウィンドウが開いたときにアンダーカット範囲に留まることができたのだ。

-Source: The Official Formula 1 Website
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