アブダビGPの終了まであと8周というとき、ランス・ストロールは、一段階軟らかく、15周新しいタイヤという大きなアドバンテージを利用して、同じアストンマーティンに乗るセバスチャン・ベッテルを楽々とオーバーテイクした。このヤス・マリーナでのレースをマーク・ヒューズが解説する。
キャリア最後の8周になっても激しく戦っているベッテルは「どうやったら作戦をこんなに間違うんだ?」と尋ねていた。
彼の競争心は明らかにまだ消えていなかった。マシンに乗っている限り、彼はレースモードに入り、集中し、戦っていた。前日の予選でもそうだった。Q3進出を決めた素晴らしいアタックの終わりに、レッドブルのドライバーが2度目の妨害をして0.1秒程度遅らせたので、彼は「こいつら」に激怒した。「こいつら」とは、彼がワールドタイトルを4回獲得した仲間たちのことである...
このQ2のベッテルのアタックは、ストロールよりも0.4秒速かった。彼は最後のレース週末、チームメイトよりもはるかに速い基本的ペースがあったが、それでもチェッカー・フラッグを受けたときはアストンマーティンは8位と10位、ベッテルはストロールよりもふたつ後ろだった。ではベッテルの作戦とはどうだったのか、そしてなぜそれが失敗したのだろうか?
レース開始前にベッテルに敬意を表すドライバーたち。
So long, partner.#DankeSeb pic.twitter.com/kdFjyFLYJF
— Aston Martin Aramco Cognizant F1 Team (@AstonMartinF1) November 20, 2022
ベッテルの作戦は1ストップで、序盤のスティントをミディアムで非常に長く走り、残り33周でハードに交換するというものだった。ベッテルのグリッドの5つ後ろからスタートしたストロールの作戦は、ミディアム / ハード / ミディアムのタイヤを使う2ストップ作戦だった。
後から考えると、ベッテルのオープニングスティントの25周は長すぎたし、最後の数周でタイムをロスしすぎたことが簡単にわかる。タイヤの劣化率を考えると、理想的な間隔の1ストップと2ストップは、理論上はほぼ同じだった。
1ストップ作戦の課題は、マシンが最も重い最初のスティントで、右フロントのミディアムタイヤを温存し、グレイニングさせず(セルジオ・ペレスの最初のタイヤセットにはグレイニングが生じた)、オーバーヒートさせず、摩耗させないことだった。
ベッテルはそのタイヤを非常にうまくいたわったが、長時間走ると(ミディアムで彼より長く走ったのはケビン・マグヌッセンだけ)、やがてリアが摩耗し、温度が下がり、極端に遅くなった。ベッテルは最初のスティントの最後の5周で、ストロールに対して8秒失った。被害を受けたのはそこだった。
ベッテルが5周早くピットインしていれば、ハードでの第2スティントが長くなったが、残り18周(40周目)でストロールが2度目のピットインをすると、ベッテルより2秒遅れではなく10秒遅れで合流していただろう。
ベッテルはレースの最初のスティントでは4位を走行していた。
ベッテルが無線連絡を受けたのは、ダニエル・リチャルドのマクラーレンを追いかけていた42周目だった。
「ランスを先に行かせれば、リチャルドを抜く手助けをしてくれるだろう」
ベッテルは「リチャルドに追いつくまで、あと2、3周ほしい。ランスはどのタイヤを履いている?」と返した。
ピットウォールは「我々はリチャルドに追いつきつつある。しかしランスの方が速く追いつく」と答えた。
「タイヤを教えてくれる?」
「ランスはミディアムタイヤ、7周走った。君のは22周目だ」
ベッテルは「彼はもう一度ピットストップしなければならないのか?」と尋ね、この作戦について理解し始めた。
「いや、誰もピットストップしない。ランスはすでに2回ピットストップを行なった」
ベッテルは結局10位でレースを終え、F1を引退した。
ベッテルが、作戦を間違ったことについて質問したのは、ストロールに抜かせたあとだった。
ベッテルの競技上の不満は、マシンを下りて数分後には消え去っていた。
「レース前は、グリッド上で多くの賛辞や(別れの挨拶的な)活動があり、いつもと少し違っていたが、信号が消えると、完全にレースモードになった。1ストップと2ストップ作戦の判断が難しかったので、簡単なレースではなかった。僕のマシンでは、1ストップ作戦を成功させようとしたが、タイヤが古くなってくると、順位を守るのがかなり難しかった」
これが、彼の最後の公式レース後の総括だった。何度もインタビューに応じたので、彼がアストンマーティンのパドックベースに戻るのがやや遅れた。誰もが、彼がリラックスするのだと思っていた。しかし彼はエンジニアリングのデブリーフに向かい、遅れたことを謝罪した。そこで彼は、自身の作戦の何が悪かったのを知ったことだろう。
-Source: The Official Formula 1 Website
2022年F1アブダビGPコラムとチーム分析