F1レース解説:雨天短縮の日本GPで戦略を成功させるのが厳しかった理由

ドライバーにとってもレースコントロールにとっても厳しい判断を迫られた日、短縮された日本GPで最も厄介な決断を下したのは、おそらくストラテジストたちだった。この鈴鹿でのレースをマーク・ヒューズが解説する。
 
当初のスタートから2周で赤旗となったあと、セーフティカー先導の下、義務付けられたウェットタイヤでレースがリスタートすると、インターミディエイトタイヤに交換するタイミングが、ピットレーン全体での最大の決断になった。

集団のどこにいるかが、最善の戦略の決め手となった。レースは、やっとリスタートしてから約45分後に時間切れになる予定だったので、おそらくエクストリームウェットからインターミディエイトに交換すると、そのままレースを終えることになっただろう。したがって、1ストップになる可能性が高く、いつピットストップするかが勝敗を分ける可能性が高かった。

セーフティカー先導のスタートにより、全員がフルウェットタイヤを使わざるを得なかったが、トラックがすぐにインターミディエイトの準備ができることは、ドライバーにとって明らかだった。ウェットウェザータイヤは、深い水たまり以外のコンディションでは非常に遅いので、トラックが乾きつつあるコンディションではできるだけ早くインターミディエイトに交換することが競争上のプレッシャーとなる。

レースはセーフティカー先導でリスタートしたが、これは一部の水たまりの排除に役立った:2022年F1日本GP
レースはセーフティカー先導でリスタートしたが、これは一部の水たまりの排除に役立った。

フルウェットタイヤを履いた18台のマシンがセーフティカーのあとを走ると、レーシングライン上の最悪の水たまりはすぐになくなり、3周目にセーフティカ―のライトが消えると、決断を下す時がやってきた。しかし、まだ雨が降り続いており、スプーンへのヘアピンから続くストレートにかけて、1周の終盤ではさらに激しく降り始めていたので、ややこしくなった。

天気予報は、雨はすぐに上がると言っていた。しかし、上位を走っている場合は、特に、雨が強くなった時にピットインしてインターミディエイトに交換するのは危険であることは明らかだった。余分なピットストップあるいは遅いマシンから浴びせられる水しぶきでレースを戦略的に台無しにされるかもしれないし、マシンが障壁に当たってレースをリタイヤするかもしれない。

また、この決断はゲーム理論のひとつだった。つまり、正しい決断は、ライバルが選んだ決断に左右されるのだが、列の中でライバルよりも前にいる場合、決断することができない。したがって、セーフティカー先導中のこの数周の間、おそらくウェットよりも数秒速いインターミディエイトタイヤにすぐに交換するのか、あるいは天候がどうなるか待機するというピットウォールの決断に、ドライバーの判断が非常に重要だった。

フェルスタッペンはルクレールに差をつけることができたので、レッドブルを戦略的に助けた:2022年F1日本GP
フェルスタッペンはルクレールに差をつけることができたので、レッドブルを戦略的に助けた。

フェルスタッペンが「雨が少し強くなったように思うのだが、どうだろう?」と報告したのは、セーフティカー先導中の3周目だった。

返事は「ピットウォールでは強くなっていない」だった。

「ここではそう感じる」

シャルル・ルクレールはフェルスタッペンのすぐ後ろを走っていたが、フェラーリのコックピットでも同じような会話があった。

ルクレールは「ピットでの雨の強さは依然と同じだが、セクター2では強まっている」と知らされた。

ルクレールは「今はレースができるコンディションだというのが理解できない」と返した。

しかし、セーフティカーのライトが消えたので、その議論は無意味になった。雨量が明らかに増えたため、レッドブルとフェラーリ、その他ほとんどのチームは走り続けることにした。車列が解放され、フェルスタッペンが先頭を、ルクレールがそのあとを追った。

ベッテルはギャンブルに出てインターミディエイトに交換した最初のひとりだ:2022年F1日本GP
ベッテルはギャンブルに出てインターミディエイトに交換した最初のひとりだった。

しかし、下位ではチャンスがあり、失うものははるかに少なかった。15位のニコラス・ラティフィと16位のセバスチャン・ベッテルは、明らかにすぐにピットストップする計画を事前に立てていた。セーフティカー先導中の無線では、計画が明かされることはなかった。彼らはセーフティカーに続いてピットレーンに入り、チームは彼らを迎える準備をしていた。

今にして思えば、これは素晴らしい戦略だった。ふたりとも、アウトラップは特に速くなかったが、雨が弱まるにつれ、ベッテルの最初の周回のセクタータイムは、インターはウェットタイヤより約4秒速くなることを示していた。2周後、ほとんどのマシンがピットインすると、ラティフィとベッテルは順位を上げた。

ランド・ノリスとヴァルテリ・ボタスは、ラティフィとベッテルの1周あと、つまりふたりがタイムを短縮し始める前にピットインした。

ノリスは水しぶきの後ろを走っていたため、失うものは何もなさそうに見えた。ノリスは「水しぶきがひどい」と報告した。「クリアエアならもっと速く走れる。喜んでやってみるよ。ここでじっとしているよりマシだ」と述べた。エンジニアは「彼ら(ベッテルとラティフィ)は今のところ速くないが、君が望むならピットインできる」と答えた。「ポジションを3つ失うことになる」

「ピットインしよう」

ノリスも順位を上げるチャンスを見つけた:2022年F1日本GP
ノリスも順位を上げるチャンスを見つけた。

この6周目は、タイヤとトラックの状態を合わせるという意味では、おそらくストップするには最適なタイミングだった。しかし、ベッテルとラティフィのタイミングと比較すると、クリアスペースでの走行がそれほど多くなかったため、ふたつの要素が相殺された。

フェルスタッペンとルクレールを含め、ほぼ全員がピットインしたのは7周目だった。振り返ってみると、おそらく最適よりも1周遅かったのだろう。もしルクレールが6周目にピットインしていれば、彼はおそらくアンダーカットしてフェルスタッペンを抜いていた可能性が高い。しかし彼もフェラーリのピットウォールも、高くつくミスになる可能性のある何かを試すほど自信があるように見えなかった。

実際、ルクレールはもう少しでさらにもう1周走るところだった。彼がシケインを通過するとき「フェルスタッペンの反対側のボックス(Box opposite of Verstappen)」という指示を受けた。つまり、数秒後フェルスタッペンがピットインするので外にとどまる(走り続ける)ことを意味した。しかし、ベッテルとノリスのタイムの意味が明らかになり、土壇場になってその指示は、「ボックス、ボックス、今だ(Box, box, now)」という緊急の呼びかけによって上書きされた。

メルセデスは、4位のハミルトンを6周目にピットインさせなかったことを後悔していた。なぜなら、そうしていれば、ルイス・ハミルトンは前を走るエステバン・オコンをアンダーカットできただけでなく、ジョージ・ラッセルもハミルトンの後ろで待つ必要がなかったからだ。メルセデスは2台とも7周目にピットインし、ラッセルは待たされて約5秒ロスし、順位を落とした。

レッドブルは7周目に両ドライバーをピットインさせた。フェルスタッペンがすでに差を広げていたため、ペレスは待つ必要がなく、タイムロスもなかった。

フェルスタッペンが優勝し、タイトルを獲得した:2022年F1日本GP
フェルスタッペンが優勝し、タイトルを獲得した。

アロンソがオコンからそれほど離れていないことから、アルピーヌはメルセデスと同じジレンマに直面した。しかしチームはフェルナンド・アロンソを待たせるのではなくもう1周走らせ、8周目にピットインさせた。この方が、ラッセルの待機よりもタイムロスが少なかった。

レース終盤、もうひとつの戦略的な関心が明らかになった。下位を走っており、失うものがなかった周冠宇(ジョウ・グアンユー)が2回目のインターミディエイトタイヤ交換にピットインしたのだ。古いセットに比べると4秒速くなった。周のタイムを見たアルピーヌは、ベッテルを抜く方法を見つけられず、ラッセルに追いつかれていたアロンソをピットインさせた。

これが成功した。アロンソは4周でピットストップによるタイムロスを取り戻し、ラッセルを抜き、再びベッテルのギアボックスの横に戻った。

アロンソより上位のドライバーは、これをする立場にはいなかった。なぜなら、取り戻すことができないほど多くの順位を失うからだった。アロンソは終盤の2回目のピットストップで2つだけ順位を落とした。例えば、ルクレールが同じタイミングでピットインしていれば、彼は2位から7位に後退していただろう。

これらすべては、この最もクレイジーな日に「万能な正しい戦略」がなかったことを強調している。

-Source: The Official Formula 1 Website



2022年F1日本GPコラムとチーム分析