F1レース解説:ラッセルのギャンブルは本人以外全員を助けることになったか - シンガポールGP

レースの数時間前の大雨の影響で、シンガポールGPはインターミディエイトタイヤの第一部と、スリックタイヤの第二部に分かれ、各チームの戦略は珍しく同じになった。このマリーナベイでのレースをマーク・ヒューズが解説する。

グランプリが始まる前までに雨は止んだが、トラックはスリックタイヤにとって十分乾くまでに、膨大な時間がかかった。そのため最初のスティントは、通常よりもはるかに長い距離をインターミディエイトで走ることがすべてだった。そしてスリックタイヤのスティントは、ドライラインの上を走ることがすべてで、オフラインは危険なため追い越しの試みは制限された。

レッドブルのセルジオ・ペレスは、シャルル・ルクレールのフェラーリに対し、前半も後半も優勢だった。トラック上での追い越しが不可能とわかったので、ルクレールが追い越す現実的な唯一のチャンスは、ピットストップで前に出ることだった。

彼は、アンダーカットを目指して1周前にピットインした。しかし、ルクレールの新しいが冷たいスリックに対し、ペレスの摩耗したが温かいインターミディエイトのオーバーカットにより、ペレスは首位を維持した。

インターミディエイトとスリックのレースの区切りは、珍しいほど同じだったが、これはジョージ・ラッセルのレースでほぼ完全に説明できる。

路面がびしょ濡れで、レースのスタートにはインターミディエイトタイヤが必要だった:2022年F1シンガポールGP
路面がびしょ濡れで、レースのスタートにはインターミディエイトタイヤが必要だった。

メルセデスは、ラッセルが予選11位に終わったことを考え、彼のマシンに新しいパワーユニットを搭載したあと、彼をピットレーンからスタートさせた。彼は比較的控え目に順位を上げ、おそらく順位を大躍進させる唯一のチャンスは、(フェルナンド・アロンソの故障したアルピーヌのために発動した)バーチャル・セーフティカーのおかげで、通常のピットストップより10秒短縮することができたとき、トラックの準備ができていることを願って早目のスリックタイヤに交換というギャンブルをすることだったかもしれない。これが21周目だった。

他のマシンが40%減速で走行しているときにピットストップすることで節約できた10秒は、湿度が高く日射しがないために、乾くのに非常に長い時間がかかるトラックでは、冷えたスリックのミディアム・コンパウンド・タイヤのグリップの悪さで帳消しになった。

しかし重要なのは、ラッセルのセクタータイムによって、他の全員がスリックタイヤに交換するタイミングを正確に把握できたことだった。ペレスはレース後「ジョージがいなかったら、もっと多くの人が早目にピットインしていたと思う」と述べた。

ラッセルはピットストップから10周後、上位陣から依然として5秒遅れていた。この遅れが3つのセクターでどのように分かれているかで、どこに問題があるのかがはっきりわかった。

ラッセルは最初にピットインしてスリックタイヤに交換したが、ピットレーンの他のチームは、彼のタイムを注意深く追っていた:2022年F1シンガポールGP
ラッセルは最初にピットインしてスリックタイヤに交換したが、ピットレーンの他のチームは、彼のタイムを注意深く追っていた。

32周目のセクター1では、ラッセルはペレスより0.7秒遅かった。ミドルセクターでは0.1秒速かった。しかし、水が多く残る最終セクターのタイトなカーブでは1.4秒遅れのタイムとなった。ところがその1周後には、ここまでのレースの最速ラップタイムを記録した。これは、トラックがやっとスリックタイヤに対応できるようになったという合図だった。

ラッセルがモルモットとして走っていなければ、チーム間の戦略的なばらつきはもっと大きくなっていたに違いない。

メルセデスのトラックサイド・エンジニアリングチーフ、アンドリュー・ショヴリンは「ジョージのレースは苛立たしかった」と語った。

「彼が順位を上げることができそうにみえるときがあったが、渋滞を抜けるのに苦労した。ミディアムへの交換はギャンブルだった。彼はコースアウトすることなく素晴らしい仕事をしたが、最終的には我々が間違っていた。早すぎる判断だった」

「しかし、彼は難しいコンディションの中でよいペースを維持しており、(レース後半には)1周で何秒も前のマシンに近づいていたので、少なくともポイント圏内には戻ってこられるように見えた。残念ながら、ミックと接触してパンクしてしまったことで、その希望も長続きしなかった」

マクラーレンはできるだけ遅くピットインすることで、中団グループの大半を抜いた:2022年F1シンガポールGP
マクラーレンはできるだけ遅くピットインすることで、中団グループの大半を抜いた。

他のチームにとっては、ラッセルの進歩が進むべき道を明らかにしたので、わずかな戦略上の細心の注意が残るだけだったが、それは非常に重要だった。トラックはスリックタイヤの準備ができていたとしても、それはスリックタイヤの新セットが、温かいインターミディエイトのセットよりアウトラップで速いという意味ではなかった。

だから、走り続けながら、他のマシンがピットインしたくなるのを待つしかなかった。フェラーリには、トラック上で追い越す方法がないため、アンダーカットを狙う以外に現実的な選択肢はなかった。ルクレールが、ピットストップで停止マークを通り過ぎた結果の2秒遅れがなくても、この作戦は成功しなかっただろう。

アルファタウリは最初のチャンスで2台をピットインさせたが、ピエール・ガスリー、角田裕毅は順位をいくつか落とした。

8位を走っていたガスリーは「すべては僕らの手の中にあったのに、それを捨ててしまった」と語った。

「ピットインを早く決めすぎたからだ。必要ないところで賭けに出てしまった。僕らがピットインし、みんながトラックを走っていたので、4台のマシンにオーバーカットされた」

マクラーレンは2台とも最後にピットインした。その結果、ランド・ノリスが4位をキープし、ダニエル・リチャルドはいくつも順位を上げ、最終的に5位になった。リチャルドはこれについてラッセルに感謝してもよいだろう。

-Source: The Official Formula 1 Website





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