
1周目レ・コンブでフェルナンド・アロンソのアルピーヌとホイールが交錯したルイス・ハミルトンはジャンプして地面に戻ってきたが、メルセデスはスパでさまざまな意味で現実に引き戻された。このベルギーでのレースをマーク・ヒューズが解説する。
夏休み前のハンガリーでポール・ポジションを獲得し、競争力のあるレースを展開したメルセデスW13は、スパでは今シーズンのどのレースよりもペースが落ちた。
その大きな理由は、スパでマックス・フェルスタッペンとレッドブルがパフォーマンスのゴールポストを動かし、今シーズンこれまでで最大のアドバンテージを享受したことにある。フェルスタッペンのアドバンテージは、メルセデスだけでなく、誰に対しても拡大したのだ。
もうひとつの理由は、予選でメルセデスがタイヤを機能させるのに苦労したことだ。レースでは、ジョージ・ラッセルがフェラーリのカルロス・サインツにプレッシャーをかけ3位争いを演じた。予選で1.5秒速かったマシンと接戦を繰り広げたラッセルは、W13がチームにとっていかに謎の存在であるかを改めて浮き彫りにした。
2022年各レースでのメルセデスのポール・ポジションとの差。


ハミルトンのレースは、アロンソとの接触後、ノーズダイブをした。
フリー走行と予選を通じて、ハミルトンとラッセルはアウトラップで非常に攻撃的だったが、スパの1周4.4マイル(7.004km)でさえ、低温のトラックでタイヤを作動温度に上げるのには不十分だったのだ。
予選を8位で終えたラッセルは「前回のレースでどうやってポール・ポジションを獲得したか、理解するのが難しいが、今日は1.8秒の差があった。マックスより遅いだけでなくアルピーヌに対しても0.6秒遅かった。今年のイモラでもそうだったが、温度が低いと僕らは苦労する。タイヤを機能させるのが難しい」と述べた。
チームのトラックサイド・エンジニアリング・ディレクターであるアンドリュー・ショヴリンは、予選後にこの状況を次のように要約した。
「ここでのマシンは、よい作動範囲に入れるのが本当に難しかった。マシンのバランスと剛性に関して、多くの妥協をしなければならない。それは問題の一部だが、週末中、新タイヤでまともなアタックができなかったことも、おそらく別の問題として調査し理解する必要がある」

ラッセルはフェルスタッペンを抑え込むペースがなかった。
メルセデスが比較的高いウィングレベルを選択した要因のひとつに、以前からこのマシンが見せていた特性があることが挙げられる(ただしそれほど極端ではなかった)。マシンが生み出すダウンフォースが大きければ大きいほど、タイヤに供給されるエネルギーは大きくなる。しかし、それはタイヤの温度不足を解消するものではなく、マシンに高いドラッグレベルを課すため、直線スピードを制限するものであり、競争力を低下させるものでしかなかった。
フリー走行では、ストレートで1周あたり1秒遅れていた。その遅れの大半は、2本の全開区間(フラットアウトストレッチ)でスリップストリームをうまく利用して牽制することで克服できるが、予選でそれをしようとすると、スリップストリームを利用しようとするマシンと同じく、遅いアウトラップの速度の制約を受ける。
他のマシン、特にフェラーリは、必ずアウトラップを低速で走っていた。彼らの問題は、アタックをはじめる前に、タイヤが熱くなりすぎるのを防ぐことだった。そのためシルバーアローは、ストレートでタイムを失うが攻撃的なアウトラップを行うか、ドラッグのデメリットをスリップストリームで相殺するがタイヤが冷えたままにするか、いずれかしかなかった。
その原因を探る手がかりのひとつは、ラッセル自身の観察から得られるかもしれない。
「ターマックがオープンなので、とても難しいサーキットだ。でも、再舗装されたターン8とターン9のグリップレベルは、他の部分よりもかなり高い。このふたつのコーナーはいつもいい感じだったが、それ以外のところはどこでも本当にダメだった。ブダペストでは、サーキット全体が最近再舗装されたので、全開で攻めることができた」

ラッセルは終盤、膨らむまではハードタイヤでペースがよかった。
しかし、レースに向けて燃料を搭載して何周か連続して走れば、問題はかなり軽減され、レース日の路面温度が予選より14度ほど高かったことも助けになったようだ。ハミルトンが1周目にミスをしてサスペンションにダメージを負ってリタイアすると、ラッセルは最初のスティントを3番手で走り、サインツとセルジオ・ペレスのレッドブルを視界に捉え、予選でラッセルよりかなり速かったアロンソのアルピーヌを大きく引き離した。すばやく追い上げてきたフェルスタッペンに抜かれて置き去りにされるが、2ストップレースの最終スティントで、ラッセルはサインツに急接近する。
ラッセルのハード・コンパウンドのC2タイヤは、サインツのタイヤよりも5周分新しかったこともあるが、フェラーリのタイヤの方が劣化率が高く、サインツはタイヤ温度を上限値以下に保つためにデルタタイムで走っていたが、一方ラッセルは攻めることができた。
残り6周となった38周目、ラッセルは8秒あった差を1.8秒まで縮めた。
「終盤カルロスに対して1周あたり1秒短縮しているとき、さあこれからだ、表彰台が狙えると思った。しかし、そのあと2周走ると、タイヤが作動枠から外れてしまった」

予選後、フェルスタッペンのマシンを覗き込むように見つめるハミルトン:メルセデスは今シーズン、必要としている答えを見つけるための時間が残り少なくなってきている。
そして39周目、激しく攻めるラッセルはブランシモンで大きく膨らんでしまった。これでタイヤの温度が下がり、まさにギリギリの状態になった。タイヤが摩耗すればするほど、タイヤの温度を戻すのは難しくなる。
「タイヤがスイートスポットにあるとき、マシンが変身するが、そこを逃すやいなや、表彰台は無理だとわかった」
フェルスタッペンとの差を無視すれば、ラッセルは予選よりはるかに競争力のある立派なレース日を過ごした。しかし、トラックによって、あるいは日によって、何が原因でこのような不安定な状態になるのか、チームにとってはまだ謎である。
チーム代表のトト・ヴォルフは「パフォーマンスに大きな波があり、それを理解することができない」と認めた。
「基本的に理解していないのはタイヤだけなのか? 残りは大丈夫なのか? あるいは空力学が悪いのか? あるいは機械的なバランスなのか? 分析するのがとても難しい」
アンドリュー・ショヴリンは「マシンはまだ様々なコースで十分なパフォーマンスを発揮できていないので、作動範囲を広げる必要があるのは明らかだ」と述べた。
「また(予選の)ラップタイムも悪かったので、この点にも集中しなければならない。今日は路面温度が上がったので、ウォームアップはかなりよくなったが、この問題はさまざまなコンディションやサーキットで繰り返し発生しているので、改善しなければならない」
-Source: The Official Formula 1 Website
2022年F1ベルギーGPコラムとチーム分析