
ハンガリーGPでマックス・フェルスタッペンがグリッド10番スタートから勝利を収めた後に、クリスチャン・ホーナーは「レース前の分析では、5位と6位は達成できるかもしれないとされていた」と述べた。では、何が変わったのだろうか? このハンガロリンクでのレースをマーク・ヒューズが解説する。
レコノサンス・ラップ
曇り空、小雨、低温のトラックのせいで、全員がグリッドにつくまで数周走った。レッドブルのドライバー(10番スタートのフェルスタッペン、11番スタートのセルジオ・ペレス)は、1ストップ作戦の基礎となるハードタイヤでスタートする予定だった。ふたりは、最初のスティントの大半で遅いマシンに囲まれることを考えると、コンピューターではこれが最も速くレースを終える方法のように見えた。
フェルスタッペンとペレスは、中古のソフトタイヤでレコノサンス・ラップを行った。気温が低く突風が吹くコンディションで、グリップがいかに低いか、そしてタイヤの温度上昇の難しさに愕然とした。両ドライバーとも、ソフトタイヤでこの調子なら、ハードタイヤでは間違いなく悲惨なことになるだろうと報告した。
レッドブルは迷うことなく対応し、1ストップ作戦を断念した。難しいとしても、最も温度が上がりやすいソフトタイヤでスタートし、2回ピットストップする。なぜなら、ソフトとミディアムの組み合わせでは、1回のピットストップで70周を走破できるほどの十分なレンジ(範囲)がなかったからだった。

フェルスタッペンは序盤、追い上げるためにバトルをしなければならなかった。
「360度スピンしたけど、レースに勝ったよ! 大勢のドライバーとバトルをしたので、とても楽しかった。クレイジーなレースだった。勝ってとても嬉しい」
このハードタイヤは、その後フェラーリが2回目のピットストップでシャルル・ルクレールに装着したとき、悲惨であることがわかった。ハードタイヤは遅く、このようなコンディションでは、適切な作動温度に到達しなかった。アルピーヌはハードタイヤで1ストップ作戦を試したが、グリッド5番と6番から後退し、8位と9位でフィニッシュした。ハードタイヤを避けたことが、フェルスタッペンの今回のレース優勝において最も重要な要素だった。
フェルスタッペンのスキル
しかし、正しいタイヤを履いていても、フェルスタッペンが10位から勝ち上がるには、忍耐力と純粋なペースとレース技術の融合が必要だった。
中団が最初の数コーナーに殺到したとき、フェルスタッペンはダメージを受けないよう慎重に走行していた。
ホーナーは「彼が慎重に走るのをはじめて見た」と述べた。
そのため、フェルスタッペンはエステバン・オコンとフェルナンド・アロンソというアルピーヌ2台のうしろにつくことになり、2台を抜く方法を見つけるのに数周を要した。そして彼は5位につけていたメルセデスのハミルトンを追いかけることになった。ハミルトンは、それまでランド・ノリスのマクラーレンの後ろで身動きが取れなかった。
しかし、ノリスのソフトタイヤが劣化し始め、ハミルトンとフェルスタッペンは12周目に、相次いでノリスを追い越した。

レッドブルは、完璧なタイミングでピットストップを行い、作戦を見事に成功させた。
戦略的な決断力
フェルスタッペンは当初、ミディアムタイヤを使うハミルトンのマシンに近づくことができたが、フェルスタッペンのソフトタイヤが劣化し始めたため、メルセデスにアンダーカットのプレッシャーをかけるため、彼をピットインさせる決断が下された。これは16周目のことで、フェルスタッペンは、中間スティントのためにミディアムタイヤのセットに交換した。
メルセデスはハミルトンを走らせ続けたため、ハミルトンのピットストップ後に彼より前に出るはずだった。しかしメルセデスは第2スティントで、ハミルトンのタイヤを最大限新しくしようとしていた。この時点で、レッドブルはハミルトンにアンダーカットのプレッシャーを与えるために、ペレスをピットインさせた。メルセデスは、ハミルトンをレッドブル2台よりも下位にするわけにはいかなかったので、ペレスの1周後にハミルトンをピットインさせた。これでフェルスタッペンとのタイヤのオフセットはわずか3周になった。
アンダーカットでハミルトンを抜いたあと、フェルスタッペンの次の課題は、2台のフェラーリと、先頭を走るジョージ・ラッセルのメルセデスに追いつき、プレッシャーをかけることだった。しかしここで思わぬ障害があった。フェルスタッペンは、滑りやすくオーバーヒートするクラッチを大事に扱わざるを得なくなった。
マシンの問題を制御する
ホーナーは「マックスはクラッチに問題を抱えていて、温度はやや制御不可能になりつつあった。だから、最初のストップの後しばらくの間、彼をカルロス・サインツの後ろで抑えなければならなかった」と説明した。15周にわたり、フェルスタッペンはサインツから数秒遅れ、トップとの差を約7秒に保ちながら、順位を維持し続けた。

マックス・フェルスタッペンは360度スピンから立ち直る:2022年F1ハンガリーGP
<この動画は外に飛びます>
Just Max pulling a 360° mid-race 😃#HungarianGP #F1 pic.twitter.com/eWVDOf407Y
— Formula 1 (@F1) July 31, 2022
クラッチの温度が下がり、スリップをコントロールするセッティングに変更したフェルスタッペンは、第2スティントの終了間際に自由になった。サインツに迫り、アンダーカットの範囲になるやいなや、再びピットインした。これが38周目のことだった。
フェラーリは最後のスティントでソフトに交換するために、サインツを走らせ続けたが、メルセデスはラッセルを次の周でピットインさせ、トラック順位を守ろうとした。フェラーリは、メルセデスがラッセルのピットストップを準備しているのを見て、ルクレールをピットインさせた。
フェルスタッペンの驚異的なアウトラップ
ラッセルはフェルスタッペンに2秒差をつけていたにもかかわらず、2回目のストップでフェルスタッペンのアウトラップのペースが驚異的だったため、フェルスタッペンより上位を維持することができなかった。フェルスタッペンのアウトラップは1分39秒455だった。ちなみにラッセルのアウトラップは1分42秒258、温まりにくいハードタイヤに交換したルクレールは1分45秒325だった。
フェルスタッペンは、チームメイトのペレスに助けられた。彼はまだ2回目のピットストップを行っておらず、アウトラップのフェルスタッペンのために即座に脇によけた。

フェルスタッペンはレース後、レッドブルの主席戦略エンジニア、ハンナ・シュミッツに脱帽した。
この見事なアウトラップによって、フェルスタッペンはラッセルを追い越した。そして、ハードタイヤを履いたルクレールのフェラーリを追いかけることができるようになった。レース後フェルスタッペンは「彼がハードでひどく苦しんでいるのがわかった」と述べた。彼はルクレールを追い詰め、41周目にDRSの助けを借りて追い越した。フェルスタッペンはその周の後半のターン13で、360度スピンをしたため、ルクレールは再び追い抜いた。しかし、フェルスタッペンが苦戦するフェラーリに最後の決定的なオーバーテイクをしかけるまで、わずか数周しかかからなかった。
これで残るは先頭を走るサインツだけになった。しかし彼は2回目のピットストップをする必要があった。ここではピットストップに約20秒かかる。フェルスタッペンのペースと、タイヤ寿命を延ばそうとするサインツのせいで、マックスはわずか13秒遅れだった。サインツがピットインするやいなや、フェルスタッペンはトップに立ち、そのまま勝利を飾った。
素早い決断
ホーナーは「小雨が降り、風が強く、気温も金曜日より20度ほど下がっていた」と述べた。
「だから、変数が大きく違っていた。ここは素早い決断をしなければならないところだと思う。そして、チームは今日、理論的に最速とされたレースを、実際に最速のレースに変換するという素晴らしい仕事をしたと思う」
-Source: The Official Formula 1 Website
2022年F1ハンガリーGPコラムとチーム分析