F1レース解説:ルクレールのクラッシュがサインツのフランスでの猛攻へのドミノ効果をいかに引き起こしたか

ポール・リカールにおけるフェラーリの速さを考えると、カルロス・サインツの5位と、最速ラップタイムの1ポイントのボーナスは、フェラーリにとっては不本意なものだった。18周目、首位を走行していたシャルル・ルクレールのクラッシュにより、マックス・フェルスタッペンは今シーズン7勝目を挙げた。しかし皮肉なことに、ルクレールの事故で出動したセーフティカーは、サインツにチャンスをもたらした。このル・キャステレでのレースをマーク・ヒューズが解説する。

オーストリアGPでの火災がらみのリタイヤに続き、今季4回目のパワーユニット交換により、後方からのスタートとなったサインツだが、フェラーリのペースとマシンの特性に慣れていることから、この週末の巻き返しに自信を持っていた。実際、予選ではQ2で最速ラップタイムを記録し、Q3ではルクレールの牽引役としてのみ出走し、実際には計時走行は1周も走らなかった。


サインツ、燃え上がるマシンから脱出連続写真6枚有り

しかし、高速で長いターンはサインツに合っているようだった。ルクレールは予選後「僕はオーバーステアのマシンが好きだが、ここではそうすることはできない。なぜならリアタイヤをダメにしてしまうからだ。だから僕にとっては難しい週末だった。ダウンフォースがとても大きいので、ぶれるときは大きくぶれる。ここではカルロスの方が速かった。それが僕のドライビング方法なんだ」

ほぼ全員がスタート時のタイヤとしてミディアムタイヤを選んだが、サインツはハードタイヤでスタートした3人のドライバーのうちのひとりだった。そのおかげで、彼は十分長く走ることができるので、ミディアムタイヤで遅いマシンがピットインしている間にクリアなトラックを活用することができる。そして1ストップ・レースの2回目のスティントでは、ハードタイヤで速いクルマに混じって、より速いミディアムで走ることになる。

19番手からスタートせざるを得なかったサインツだが、日曜日には順調に順位を上げた:2022年F1フランスGP
19番手からスタートせざるを得なかったサインツだが、日曜日には順調に順位を上げた。

タイヤの激しい劣化が予想されたにもかかわらず、1ストップとなったのは、ピットレーンの速度制限エリアが延長されたことで、ピット作業のタイムロスが約3.5秒加算されたからだった。しかし、ハードタイヤでスタートすると、早期のセーフティカーに対してやや脆弱な戦略になってしまう。つまり、セーフティカー先導中のピット作業で節約できる10秒を生かすには、走行距離が30周程度とされるミディアムタイヤへの交換が早すぎる可能性があった。

オフセットタイヤ戦略を確実に実行するために、サインツは理想的には23周目以降にセーフティカーが出動する必要があった。そうなれば、ミディアムタイヤを53周目のチェッカーフラッグを受けるまでもたせられる可能性もあっただろう。結局、チームメイトによるセーフティカーは早すぎたのだ。

サインツはエステバン・オコンのアルピーヌとダニエル・リチャルドのマクラーレンにはさまれた9位まで順位を上げていたが、18周目にルクレールがクラッシュし、セーフティカーが出動した。フェラーリもサインツをピットインさせざるを得なくなった。10秒の短縮は無視するには貴重すぎたからだった。セーフティカー導入によって車列が短くなったので、サインツがそのまま走り続けていれば順位を大きく落としていただろう。

首位走行中のルクレールが壁に激突:2022年F1フランスGP<br>
首位走行中のルクレールが壁に激突:2022年F1フランスGP

また、ピットストップ時の右フロント・ホイール交換の遅れがレースをさらに複雑なものにしていた。リチャルドに先行を許したものの、オコンがアルピーヌのガレージでチームメイトのフェルナンド・アロンソの後ろに並んだため、サインツの順位が下がることはなく、それほど大きな損失にはならなかった。問題はフェラーリがサインツをリリースしたときに、そこにアレックス・アルボンがちょうど到着したので、ウィリアムズのドライバーは激しいブレーキングを強いられ、マクラーレンのメカニックを巻き込みそうになったことだった。

チームのミスによりサインツとアルボンはピットレーンで接触しそうになる:2022年F1フランスGP
チームのミスによりサインツとアルボンはピットレーンで接触しそうになる。

これがフェラーリによる危険なリリースと判断され、サインツには5秒のペナルティが科せられた。このペナルティは、その後のフェラーリの戦術的選択に大きな影響を与えることになる。

セーフティカーはサインツにとって理想的なタイミングよりも早く登場したが、彼にとって当座のチャンスとなった。なぜなら、彼は2台のマクラーレンの後ろを走り、それまで20秒以上前にいたジョージ・ラッセルとセルジオ・ペレスの速いマシンが手の届くところまで来ていたからだ。5秒のペナルティを受けたが、その20秒の差はほとんどなくなっていた。リスタート後2周でマクラーレン2台とアロンソを抜き去った。周囲のマシンはハードのC2コンパウンドを使っているのに対し、彼はミディアムタイヤなので、今やラッセルを追いかけていた。

彼は高速コーナーのシーニュのアウトサイドから大胆な動きでメルセデスを抜いたが、ラッセルの防御の弱みを見つけるのに、理想よりもやや手間取った。これが31周目で、このミディアムタイヤのセットが最後までもたないとすれば、サインツは理想的には2度目のピットストップを35周目より前に行う必要があった。そうすれば、ピットインによって失った順位を取り戻す時間が十分あっただろう。

しかし彼は、3位を走るペレスのレッドブルに追いつき、プレッシャーをかけていたので、35周を過ぎても走り続けた。フェラーリが彼に、ピットインしたいかどうかを尋ねたのは41周目だった。ラッセルが奪うであろう順位を取り戻すには遅すぎた。これを話し合っている最中に、サインツは最後のコーナーでペレスを見事に抜き去り、3位になった。彼は実際、オーバーテイクをしている最中に、ピットインの指示を受けていた。

フェラーリのピットが混乱するなか、サインツがペレスをオーバーテイク:2022年F1フランスGP
フェラーリのピットが混乱するなか、サインツがペレスをオーバーテイク。

フェラーリは、5秒のペナルティを受けたあとペレスやラッセルを抜くにはタイヤの寿命が足りず、公式順位はせいぜい5位、しかもタイヤの故障リスクがあると判断した。そこでフェラーリは、ピットでペナルティを消化して5位まで順位を上げ、新タイヤを使えば最速ラップタイムの1ポイントを獲得できると考えた。

彼がそのまま走り続けていたらどうなっていたかは、永遠にわからない。タイヤは持ちこたえただろうか? メルセデスはハミルトンを使ってラッセルにサインツを近づけ、それによって5秒差をつけさせないようにしただろうか? それとも、サインツはハミルトンも抜くことができただろうか?

レース後、チーム代表のマッティア・ビノットはチームの作戦を擁護した。

「我々の選択に関しては、適切だったし、正しいものだった…。 まず、我々はタイヤ寿命に合わせ、少なくともタイヤ寿命に関する判断を誤らないよう、彼のスティントをできるだけ長くしようとしていた。しかし、必要なすべての情報を入手した時点で、レースを最後まで走るにはタイヤ寿命が足りないことがわかった。単純なことだ」

「そして走り続けると、タイヤ寿命に関して安全性と信頼性のリスクがあった。だからピットストップをしなければならなかった。さらに、カルロスのペースは、ペレスとラッセルに5秒以上の差をつけるほど速くなかったと思う」

サインツのタイヤは最後まで持ったのだろうか? フェラーリのデータによると「ノー」だった:2022年F1フランスGP
タイヤは最後まで持ったのだろうか? フェラーリのデータによると「ノー」だった。

サインツは「データとタイヤの数字を見せてくれたとき、チームは僕が最後まで走れなかったと強く信じていたと思う。戦略の基礎になるものだから、数字を信じるしかない。チームは 良かれと思ってそうしたんだ。もちろん、最後尾からスタートして3位、表彰台圏内にいるのだから、ピットストップで数秒を失うようなことはしたくない。だから僕はもっとリスクを冒したかった。でも結局、チームはタイヤに関して安全策をとった。完全に理解できるが、一緒に分析しなくてはならない」と述べた。

「ペナルティがなければ、ポール・ポジションと優勝を争うレース週末になっていたと思う。ペナルティがあったとしても、完璧なレースと通常のピットストップをしていれば、表彰台に立っていたはずだ。強い週末だったし、ドライバーとしての僕にとってとてもよい週末、自信を与えてくれた週末だった」

-Source: The Official Formula 1 Website



2022年F1フランスGPコラムとチーム分析