フェラーリ2台とレッドブル2台の4台のバトル:2022年F1イギリスGPリスタート

スカイスポーツF1のマーティン・ブランドルは、最新コラムで、イギリスGPの驚くべき瞬間を掘り下げる。周冠宇のクラッシュ、F1の安全性、サインツとルクレールに対するフェラーリの決断、ルイス・ハミルトンの調子、不運なマックス・フェルスタッペン、などなどに対する洞察…

今年のイギリスGPは、私がこれまで参加・解説したなかで最高のレースのひとつだった。

シルバーストンは素晴らしかった。大観衆は、木曜日から絶えず熱狂しており、予選とレースは最初から最後まで予測不能で、椅子から身を乗り出すような展開だった。

私にとっては、余裕でトップ10に入るレースである。2008年ブラジルはもちろんチャンピオンシップのクライマックスであり、雨の2019年ホッケンハイムはワイルドだった。鈴鹿など多くの会場で、傑出したレースもあったが、今回のスリリングなレースは、危機、スペクタクル、熟練のホイール・トゥ・ホイール・レーシングが満載だった。

完全にドライだったので、レースを盛り上げる雨は期待できなかったが、赤旗とフル・セーフティカーが、その役割を果たした。

周冠宇(アルファロメオ)クラッシュ:2022年F1イギリスGP

「恐ろしく」て「憂慮すべき」周のクラッシュ - 何が起きたのか、そしてそれは回避できたのだろうか?

第1コーナーのカオスは、いくつかの理由で非常に怖かった。マシンが密集状態で第1コーナーに向かって蛇行するなか、ある意味「それほど頻繁に起きないことに驚く」ようなクラッシュのひとつが起きた。さらに、3種類のタイヤ・コンパウンドが用意されていたことで、うまく発進したドライバーもいたが、ジョージ・ラッセルのように遅いハード・コンパウンドのタイヤを履いたドライバーはスタートラインを離れるのに苦労した。

今年からトップ10は予選タイヤでスタートする義務がなくなったため、上位陣と下位陣で発進性能のミスマッチが起こり、急速に順位を上げるドライバーと順位を落とすドライバーが出てくる。

ラッセルは、ピエール・ガスリーとの横方向の車間距離を見誤ったようだが、前方の混乱を注意深く見守りつつ、自身のマシンとギアシフトをコントロールするのは難しいものだ。その後ラッセルのマシンは、すぐに周冠宇のアルファロメオをひっくり返したが、これらのマシンの重心の低さを考えると異常だった。大きく粘着力の高いタイヤと、マシンの勢いがあれば、これほどのエネルギーをもたらすことができるのだ。

規則(レギュレーション)は、F1マシンとドライバーの合計重量は798kg以上と規定されているので、レース用に燃料を搭載したマシンは、スタート・ラインで900kgを越えている。そしてタービンのような1000馬力が加わるので、2020年バーレーンのロマン・グロージャンの炎上事故のように、サーキットが何とか対応できるような膨大なエネルギーが封じ込められている。



マシンが上下逆さまになっているので、非常に大きなタルマック舗装のランオフエリアは、横滑りする四輪を減速させるという本来の役割を果たせなかった。そしてグラベル・トラップも、マシンの狭い上面では機能しなかった。そして衝撃吸収タイヤバリアが高速で移動する逆さまのマシンを出迎えたが、マシンを跳ね上げただけだった。

最後に、グランドスタンドを保護する破片防止フェンスがマシンを止めたが、周は幸いマシンのアンダーフロアから離れてはいなかった。壊れたマシンが落ちた狭い場所がそもそも必要なのか、あるいはもっと大きなスペースが必要なのか、わたしには言う資格がない。それはFIA、マーシャル、サーキット設計者が決めることだ。

周冠宇(アルファロメオ)クラッシュ:2022年F1イギリスGP
ターン1のクラッシュ:周冠宇がタイヤバリアの外側に、最後に元気な姿も。
YouTube <動画1分40分>

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュ!:2022年F1イギリスGP

周冠宇、レース中に元気が姿が
周冠宇、クラッシュから生還:2022年F1イギリスGP

周冠宇、クラッシュから生還:2022年F1イギリスGP


その後マシンを見て、ロールオーバー構造が完全に壊れていたことは憂慮すべきことだが、これらのアイテムを無限に強化することはできない。さもなければ、マシンは非常に重くなり、マシンも事故現場もさらに強化する必要があるので、悪循環に陥ってしまう。2026年の新マシンでは、重量を減らさなければならない。

ありがたいことに、マシンは炎上しなかった。炎上していれば、悲惨な結果になっていただろう。あるいは、マシンの軌跡が異なっていれば、マシンはマーシャルポストやカメラスタンドを転々としていたかもしれない。

ここで運命が大きく変わった。このクラッシュと即座の赤旗がなければ、他のF1マシンは、そのままスリップストリームを壊すためにウェリントン・ストレートを蛇行しながら走り、コース上に座っていた抗議者や、大惨事に巻き込まれた他の誰かを、文字通りバラバラにしていたかもしれない。これは無責任極まりない行動だった。


抗議の人が1周目にトラックに入ったようだ。警察とマーシャルがすぐに対応したので、レーシングに影響はなかったようだ。


もうひとつの運命の転換は、ラッセルと周の接触のあと、ウィリアムズのアレックス・アルボンは周よりも激しくピットウォールにぶつかった。これまでと同様、派手なクラッシュは、かなり長い時間をかけてエネルギーを放散するので、コックピット内に何も入ってこなければ、1996年メルボルンでの私のクラッシュのように、怪我をする可能性は低い。本当に痛いのは急停止なのだ。

アレックス・アルボン、クラッシュ:2022年F1イギリスGP
クラッシュの衝撃でマシンからすぐに出れないアレックス・アルボン:周は医療センターでの検査だけで済んだが、アルボンはその後ヘリコプターで病院に搬送され検査入院をした。


FIA、F1、そしてチームは、マシンとサーキットの安全性に関して素晴らしい仕事をして、世界中のすべてのモータースポーツに恩恵をもたらした。その恩恵には、燃料システムとバッテリーパックの完全性も含まれる。バーレーンでのグロージャンはマシンが引き裂かれたが、周の場合、彼を救出する時間があった。

不運なフェルスタペン、ラッセルがレース継続を認められなかった理由

チャンピオンシップ首位のマックス・フェルスタッペンは、今年も運に恵まれなかった。彼はポール・ポジションを獲得するはずだったが、イエロー・フラッグが予選最後のアタックを台無しにした。また、最初のスタートでは楽々と首位に立ったが赤旗が出た。その時点でマシンはまだ走行中で、ターン1とターン2の間にある第2セイフティカー・ラインを越えていなかった。このラインは、ピット入口にある第1セーフティカー・ラインとともに、いくつかの規約における重要な基準点である。そのため、リスタートは、最初のグリッド順位になり、周、ラッセル、アルボンがレースを継続しないこともわかった。

ジョージ・ラッセル、周冠宇を助けようとマシンから飛び降り、タイヤバリアに向かった:2022年F1イギリスGP

ジョージ・ラッセルは、3輪になったメルセデスをピットに戻すこともできたかもしれないが、彼は本能的かつ勇敢に、周を助けようとしてマシンから飛び降りた。彼のマシンは、自動的に始動しないので、規約に従い、「外部の補助」を受けた彼は、リスタートを禁止された。これは、表面上は厳しいようだが、自力でピットに戻らなくてはならないし、被災したドライバーを助けるために、大勢のマーシャルや医療関係者が適切な装備で待機している。悲しいことに善きサマリア人は母国GPをリタイヤした。

周が大丈夫かどうかマシンから飛び降りた。


再スタートはサインツがフェルスタッペンを抑えてトップでターン1に:2022年F1イギリスGP

1時間ほどでレースが再開され、今回はポール・シッターのカルロス・サインツJr.がフェルスタッペンをインサイドに追い込み、首位を維持した。しかし、このあと51周にわたって繰り広げられる展開に比べると、大したことはなかった。

2022年のF1マシンは以前より簡単に追従することができるし、高速で開けたシルバーストンでは、それが本当に表れていた。また、サイド・バイ・サイドになっても、失う空力学的ダウンフォースがはるかに少ない。さらに、ドライバーは高速のオフラインでもマシンを操縦するために前車軸をうまくコントロールするし、リアタイヤが路面をしっかりグリップするのでスピンしないという自信を持っている。

さらに、若手ドライバーは、適度に頑丈なサスペンションやボディワークを備えた、非常に安全なマシンでスキルを磨き、多くのサーキットでは滑らかなランオフエリアが用意されている。したがって彼らは、ライバルが速いコーナーにいようが遅いコーナーにいようが、インサイドとアウトサイドのどこからでもオーバーテイクしようとするし、かなり型破りな動きをする。

これはレース・レポートではない。その観点から、レースを見直すことをお勧めするが、いくつかの点を再確認しておこう。

カルロス・サインツ、F1初優勝:2022年F1イギリスGP

ルクレールのフラストレーションのあと、サインツが待望の初優勝を果たす

モナコとモントリオールで勝てなかったカルロス・サインツは不運だった。前回のスカイF1のコラムでは、彼には優勝する準備ができていて、優勝すればあとはうまくいくと感じていた。カルロスは今のところチームメイトのシャルル・ルクレールほど速くないが、非常に粘り強く、レースが進めば進むほど決意を固めていく。彼は決してあきらめないし、頑固でもある。

ルクレールはリスタートの1周目にフロント・ウィングにダメージを負ったが、バトルでリスクを冒したと言わざるを得ない。片方のウィングのエンドプレートがない状態で、どうやってあれほど速く走っていたかはわからないし、フェラーリは、サインツにルクレールを先に行かせるよう頼むが少し遅すぎた。そのため、立ち直ったメルセデスに乗る、速いルイス・ハミルトンが追い上げてきた。

ハード・タイヤで27周走れたとすれば、ルクレールがレースを支配したかに見えたが、エステバン・オコンのアルピーヌがピットウォール横の旧ピットストレートで停止した。これは明らかにセーフティカーの出番であり、それなりに考える時間があった。しかし、フェラーリはハードタイヤで13周走ったルクレールをピットインさせなかったため、彼は非常に無防備な状態になっった。2台同時にピットストップすれば、後続のサインツに数秒間の待ち時間を与えることになっただろう。

一方、サインツ、ハミルトン、ペレス、アロンソ、ノリスといった上位陣はピットインして、新しいソフト・コンパウンドのタイヤに交換した、ルクレールはこのことを無線で聞かされたとき「これは難しくなるだろう」と答えたが、まさに予言的中だった。ルクレールは苛立たしいのと同時に腹の立つ4位に甘んじることになる。ルクレールは、今季6回のポールポジションを獲得し、一度はワールドチャンピオンシップを余裕でリードしていたが、過去5戦は表彰台に立つこととがなく、この3ヶ月間は優勝していない。

フェラーリは明らかに、ルクレールがフェルスタッペンのチャンピオンシップ・ライバルであると感じているにもかかわらず、ルクレールはフェラーリでうまくいっていない。チームがサインツに、リスタートを先導するシャルルに一息つく時間を与えるために、最大の10車身分後退するよう依頼したとき、サインツは「嫌だ。僕の方が正しいタイヤをはいて正しい場所にいるので、このレースで勝ている」と返した。

この決定的瞬間、彼はフェラーリを救ったのだ。カルロスと彼の家族のために、そしてもちろんチームのために、とても嬉しい。

ルクレール、ペレス、ハミルトンがホイール・トゥ・ホイールの「驚くべき」三つ巴のバトルを展開:2022年F1イギリスGP

地元の英雄ハミルトン、マックスに迫るペレス

ルイス・ハミルトンは、改良されたメルセデスを最大限活用し、セーフティカーが出動しなければ、2台のフェラーリよりもかなり新しいタイヤを使い、レースの最速ラップタイムを含めて飛ぶように走り、このレースで優勝したかもしれなかった。彼はまた、ホイール・トゥ・ホイールのアクションとなると、若い世代に全く引けをとらないことを証明した。

セルジオ・ペレスはフロント・ウィング交換のために序盤にピットインせざるを得ず、6周目には最下位の17位に後退していた。レースの残りは、レース・リーダーに匹敵するスピードがあり、セーフティカーが彼の有利に働いたので、優勝争いに復活した。消耗したタイヤを使うルクレールの後ろであれほど長く走らなければ、ペレスも優勝したかもしれない。


アルピーヌのフェルナンド・アロンソとマクラーレンのランド・ノリスは、非常に競争力のあるレースをした。ミック・シューマッハが、フィニッシュ・ラインまでフェルスタッペンに激しく攻め、8位でフィニッシュして初のワールドチャンピオンシップ・ポイントを獲得したのを見ると、嬉しかった。



フェルスタッペンは、姉妹チームであるアルファタウリのボディワークの大きな破片が、短剣のようにフロアに突き刺さったため、重要なアンダーフロアの半分がダウンフォースを生成しなかった。7位は彼にできる最善の結果だったが、それでも彼はチームメイトのペレスに対して34ポイント差をつけて、チャンピオンシップ首位に留まっている。

大勢の観客がトラックに入って表彰台の近くで祝ったり、その後ステージに上がったヒーローたちを見るためにアリーナ・エリアに移動したりしていた。ありがたいことに、レース後全員が無事で生きていた。我々は、本当に素晴らしいスポーツ・イベントを目の当たりにした。次戦オーストリアは、シーズンの折り返し点である。

-Source: Sky Sports




2022年F1イギリスGPコラムとチーム分析