これは、最もドラマチックで論争を呼んだワールドチャンピオンシップの最終戦だったのだろうか? 2008年のブラジルや1976年の日本と並んで、間違いなくその可能性は十分にあるだろう。そのレースをマーク・ヒューズが解説する。
ルイス・ハミルトンのメルセデスは、1周目から最後から2周目までレースを支配していたが、メルセデスが無効と考える最終周回で、マックス・フェルスタッペンのレッドブルが優勝し、チャンピオンシップを獲得した。
この論争は、残り6周となった52周目に、ミック・シューマッハのハースとバトルしていたニコラス・ラティフィが、ターン14の障壁にウィリアムズをクラッシュさせたことから始まった。この時点で、ハミルトンはフェルスタッペンを11秒差でリードしており、前人未到の8回目のワールドチャンピオン獲得に順調に向かっていた。
ハミルトンはレースをリードしていたが、残り周回数が少なくなったところでセーフティカーが出動した。
セーフティカー
セーフティカーのペースに合わせて車列が減速しているため、リスタートのために新しいタイヤに交換する絶好の機会となる。ただし、ピットインにかかる時間よりもレースでリードしている時間が短い場合は別の話だ。つまりハミルトンの11秒のリードでは足りない。この状況でハミルトンをピットインさせると、レッドブルは必ずフェルスタッペンを走らせ続けるので、レースの首位をほほ手放すことになる。
メルセデスは、14周目から使っているハード・コンパウンドのタイヤで、ハミルトンを走らせ続けるしかなかった。ハミルトンは、新しいソフトタイヤを履いたライバルがすぐ後ろにつけている状態で、レースとチャンピオンシップの最後の再スタートを切る可能性があった。偶然の運命でタイトルを奪われてしまうかもしれなかった。
しかし...そのようなことにはならないように見えた。マシンと破片が取り除かれていくうちに、どんどん周回数が減っていったのだ。セーフティカー先導中にレースが終了する可能性も十分にあった。ここ数年、チーム間では、今年の初めのバクーのように、レースディレクターは1、2周でもグリーンフラッグの状態でレースを終えるように努力すべきだという一般的な合意がなされている。
最終周回で、フェルスタッペンがライバルを抜いてトップに立ち、チャンピオンシップ優勝を果たした。
この状況では、通常の競技規約のプロトコルに従っていれば、それは不可能だった。残り2周となった56周目には、現場の清掃が終わりかけていた。このような状況では、通常、周回遅れのマシンは自ら周回遅れを解消し、次の周回の終わりにセーフティカーがピットインすることで、それらのマシンはレースが再開される前に最後尾に合流するチャンスを得ることができるのだ。しかし、そのような時間はなかった。これでは、セーフティカーがピットレーンに退場したあと、1コーナーでチェッカーフラッグを受けることになっただろう。
周回遅れのマシンが周回遅れを解消することは義務ではなく、レースディレクターの裁量に委ねられている。今回の場合は、そうなるように見えた。ただし、ハミルトンとフェルスタッペンの間には、ランド・ノリス、フェルナンド・アロンソ、エステバン・オコン、シャルル・ルクレール、セバスチャン・ベッテルの5台の周回遅れのマシンがあったので、ドラマチックな結末にならない可能性があった。
そのため、ハミルトンとフェルスタッペンの間にいる5台の周回遅れのマシンだけが、周回遅れを解消することが許され、その周回の終わりにセーフティカーが退場し、1周のレースが行われることになったのだ。ハミルトンの最悪の懸念は現実のものとなり、ハミルトンよりグリップの大きいタイヤを履くフェルスタッペンは、ハミルトンを追い抜き、レースとタイトルの両方を獲得した。
周回遅れのカーナンバー4のノリスから5のベッテルまで5台、セイフティーカーをオーバーテイク可能に
【動画】サイド・バイ・サイド:ドライバーズ・タイトルを賭けた最終周回の対決
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Has one lap ever contained so much emotion? 🍿#AbuDhabiGP 🇦🇪 @redbullracing pic.twitter.com/SY4oWS5qML
— Formula 1 (@F1) December 13, 2021
激怒したメルセデスチームは、2つの抗議を提出した。リスタートの手順に関する抗議と、フェルスタッペンがセーフティカー先導中に一瞬ハミルトンを追い越したと主張する抗議である。
最初の抗議は、競技規則の第48条12項に基づく主張だった。
コースの現場責任者がそうすることが安全であると判断し、公式メッセージ送信システムにより "LAPPED CARS MAY NOW OVERTAKE"(周回遅れ車両は追い越し可)」のメッセージがすべての競技参加者に送信された場合には、先頭車両に周回遅れにされていたすべての車両は、先頭車両と同一周回(リードラップ)にいる車両およびセーフティカーを追い越すことが求められる。これは、セーフティカーが出動した後で、最初のセーフティカーラインを2回目に超えた周回の終了時点でラインを越えた時に周回遅れとなっていた車両にのみ適用される。
先頭車両と同一周回にいる車両およびセーフティカーを追い越した後、追い越しをすることなく適切な速度でコースを進み、セーフティカー後方の車両隊列の最後尾につくようあらゆる努力をする。先頭車両と同一周回にいる車両は、追い越されている間、それが安全に遂行されるよう、レーシングラインを離れることが避けられない場合でない限り常にレーシングラインにとどまっていなければならない。
コースの現場責任者がセーフティカーの存在が引き続き必要であると判断しない限り、最後に追い越された車両が先頭車両を追い越したら、セーフティカーは次の周回の終了時点でピットへ戻る。 コースの現場責任者が、コース状況が追い越しに適さないと判断した場合には、"OVERTAKING WILL NOT BE PERMITTED"(追い越し不可)のメッセージが公式メッセージ送信システムにより全競技参加者に送信される。
数時間後にスチュワードが評決を発表して、レッドブルはようやく喜ぶことができた。
スチュワードは、第48条12項は第48条13項によって上書きされると主張し、この訴えを退けた。
コースの現場責任者がセーフティカーを呼び戻しても安全であると判断した時は、"SAFETY CAR IN THIS LAP"(セーフティカーはこの周回で入る)のメッセージが公式メッセージ送信システムにより全競技参加者に送信され、セーフティカーはすべてのオレンジ色の灯火を消す。これはセーフティカーがその周回が終了した時点でピットレーンに入ることを競技参加者およびドライバーへの合図となる。
当事者による様々な発言を考慮し、スチュワードは以下のように決定する。
第15条3項は、レースディレクターがセーフティカーの使用をコントロールすることを認めており、我々の判断ではセーフティカーの出動と退場も含まれる。第48条12項は完全には適用されていないかもしれないが、次の周回の終わりにセーフティカーがピットに戻ることに関しては、第48条13項がそれを覆し、"Safety Car in this lap" というメッセージが表示されたら、その周回の終わりにセーフティカーを退場させることが義務づけられている。
メルセデスがスチュワードに対して、最終周回終了時の順位を反映した順位への修正を求めているにもかかわらず、これは事実上、遡ってレースを短縮することになるため、適切ではないとスチュワードは考える。
惜しくもタイトルに手が届かなかったが、ハミルトンは負けても潔かった。
セーフティカー先導中のオーバーテイクについては、第48条8項に記載されている。
下記 a)~h)の場合を除いて、セーフティカーがピットに戻った後、車両が最初にライン(第5条3項参照)を通過するまで、ドライバーはセーフティカーを含め他車の走路上での追い越しが禁止される。
また、スチュワードは次のような理由でこの抗議も退けた。
当事者による様々な発言を検討した結果 スチュワードは、カーナンバー33(フェルスタッペン)がごく短時間、カーナンバー44の前に少しだけ出たものの、両マシンが加速と制動を繰り返しているときにカーナンバー44(ハミルトン)の後ろに戻り、セーフティカーの期間が終了したときには(つまりライン上で)前に出ていなかったと判断した。
こういったことがあり、2021年のチャンピオン決定戦の形勢が逆転した。そしてそれは、今後何年にもわたって議論されるであろうチャンピオン決定戦でもある。
-Source: The Official Formula 1 Website
2021年F1アブダビGP コラムとチーム分析