"Sly F1" のマーティン・ブランドルが、サウジアラビアGPのカオスと論争を解明し、タイトル争いのライバルたちの奇妙な衝突、ルイス・ハミルトンに対するマックス・フェルスタッペンの姿勢への不安などを解説する。タイトル争いをしているふたりのライバルは、同点でシーズン最終戦のアブダビGPを迎える。
ルイス・ハミルトンがサウジアラビアでF1通算103回目の優勝を果たしたことで、改修されたアブダビのサーキットでの壮大な対決が実現した。今回も、ジェッダの投光照明下でのハミルトンとメルセデスの容赦ないスピードは、マックス・フェルスタッペンとレッドブルが何かを思いついたとしても、それを上回るように見えた。
この点で、F1には、レーストラックの設計、特に「安全」なランオフエリアに関する設計、そして競技規約によって、マックス・フェルスタッペンが現在選択しているレーシング方法を封じ込めることができないという問題がある。
FIAが彼をコントロールする唯一の方法は、延々と続く再調査とたまに出すペナルティだ。
ハミルトンは、ポイントのアドバンテージがないため、フェルスタッペンと事故を起こす余裕がなく、ポイント差を縮めるチャンスを失う余裕がないという前提でゲームをしている。最終戦に向けて、F1では1974年以来のポイントが完全に同点になったにもかかわらず、レース優勝回数が9対8であるため、この状況は変わらない。
そのため、マックスのマシン・コントロールと狡猾さは、時に大胆な動きを引き出し、それがハードなレーシングなのか、それとも単にペナルティ覚悟の反則なのか、疑惑の余地を残すことがある。そしてブラジルでの悪名高いターン4のような瞬間は、混乱、論争、矛盾を生み出している。
わたしは、フェルスタッペンのドライビングスキルと、抜け目のないレーシングに畏敬の念を抱いており、2015年、トロ・ロッソ在籍中の中国GP以来、彼を支持してきた。ハンドルを握る彼のタッチとコントロールには目を見張るものがあるが、彼があのような戦術を用いるのは悲しいことだ。彼はこんなことをするべきではない。
そして、彼の気楽な態度にもかかわらず、アンフェアなドライバーというレッテルが貼られるとしたら、とても残念だ。
アイルトン・セナとミハエル・シューマッハにも欠点があったし、わたしもふたりの犠牲者になったことがある。しかし、それらの欠点は彼らの絶大な名声に大きな傷をつける。
サウジアラビアGPのカオスを解明する
2時間6分に及んだ50周のナイトレースの基本的な流れ。
10周:ミック・シューマッハのクラッシュでセーフティカー出動
13周:1回目の赤旗
15周:2回目の赤旗
23~24周:破片のためバーチャル・セーフティカー
30~32周:破片のためバーチャル・セーフティカー
36周:破片のためバーチャル・セーフティカー
37周:ハミルトンがターン1でフェルスタッペンを抜きそうになる
37周:ハミルトンがフェルスタッペンのマシンに追突する
42周:フェルスタッペンがハミルトンに順位を譲り、すぐに抜き返して、DRSを使ってピットストレートを走行
43周:ハミルトンがフェルスタッペンを完全に追い越す
この結果、レース後のポイントは
ドライバーズ・ポイント
順位 得点 ドライバー 優勝回数
01. 369.5 マックス・フェルスタッペン 9勝
02. 369.5 ルイス・ハミルトン 8勝
コンストラクターズ・ポイント
順位 得点 チーム 優勝回数
01. 587.5 メルセデス 9勝
02. 559.5 レッドブル 10勝
レース前、校長先生に冷たい目を向けられていたのはルイスだった。フリー走行で、ニキータ・マゼピンを含むふたりのドライバーをひどく妨害したからだ。マゼピンは、メルセデスに追突するのを避けることで、ルイスのチャンピオンシップのチャンスを救ったので、ルイスは当然彼に感謝していた。
イエローフラッグの違反は、マーシャル・ボタンが間違って1秒間押されただけだったので、全く問題なかったのだが、カタールでペナルティを受けたレッドブルは、不当に扱われたと感じたようだ。
さらに舌戦が続き、ルイスは、マックスがピットレーンでスタート練習をしたと不満をもらし、マックスは、ルイスが赤旗後の静止スタートの準備までの間、マシン10台分以上離れていたと不満を述べた。これにはメリットがあるが、このシナリオでは、なぜ通常のフォーメーション・ラップとルールが違うのか意味がわからない。これではグリッド上でマシンが長時間待つことになるだろう。
マックスは、予選でのミスにより、ポールポジションではなくグリッド3番になった。そして、レース中の3回のスタートもそれぞれうまく行かなかったので、彼はターン1に向かってアタックし、そのあと自分でトラック・レイアウトを描き替えなくてはならなかった。
その後、最初の赤旗で、状況がレッドブルの思惑通りになった。彼らは最初のセーフティカーのときにピットインせず、走り続けるという賭けに出たので、赤旗中断の間に自由にタイヤを交換できた。これは奇妙な規約だが、赤旗でレースが中断されている間に、マシンを修理したり、ダメージを受けたタイヤを交換したりすることで、ドライバーはレースを続けることができる。因果はめぐる。
2回目のスタートではハミルトンが主導権を握ったため、マックスはランオフエリアの外側に回り込んで、自分のフィールドを作った。その後、ルクレールとペレスが接触して大混乱に陥り、レース・コントロール、レッドブル、メルセデスの3者間で、マックスがルイスをコース外で追い越したペナルティとして、3回目のスタートをする順位めぐって、かなり奇妙な、しかし珍しくないやりとりが行われた。
リスタートでハミルトンが前に出た
フェルスタッペンはトップを維持だが、一回コースを外れているので微妙
後ろでクラッシュ
なぜレッドブルはリスタート順位について「取引」を持ちかけられたのか:マイケル・マシが理由を説明 - フェルスタッペンのリスタート順位
その答えはマックスは3番スタートだった。彼は新しいミディアムタイヤに交換したが、レース終盤にはあまり調子がよくなかったようだ。マックスは、ハミルトンと、グリッド9番からスタートして今や首位になっているエステバン・オコンのインサイドに切り込んだが、それが完璧に成功した。チャンピオンシップのライバルはハンドルを右に切らざるを得ず、オコンのアルピーヌにフロントウィングをぶつけるのを何とかして避けた。
フェルスタッペン、トップに
F1で最も幸運で頑丈なフロントウィングは、さらに激しいアクションに見舞われることになる。37周目、ターン1で再びコースアウトしたマックスは、チームを通じてレース・コントロールから、順位すなわち首位をルイスに「戦略的に」戻すよう指示された。これは、バーレーンGPのことを意味していたのだろう。シーズン開幕戦のバーレーンでは、マックスがルイスに譲ったことで、レーシングラインを外れて後れをとり、DRSゾーンで近づけなくなり、それが原因でおそらくルイスに優勝を奪われたのだ。
今回はルイスに14ポイントのアドバンテージを与えることになる。その時の状況を想像してみてほしい…
マックスは減速し、当初はターン27のヘアピンまでのカーブで、スペースを空けていた。ルイスは、まだ順位を譲られることを知らなかったが、「何が起きているのかわからなかった。だから彼を抜かなかった」という言葉はつじつまが合わないのは、何かを予期していたに違いない。もしマックスに技術的問題が発生して、レースから脱落していくのなら、ルイスはいつものように、さっさと追い抜いていただろう。彼は本能的に戦術と危険を嗅ぎ取ったのだ。
わたしは、マックスは最初はルイスを先に行かせる努力をしたと思う。しかし、ふたりともピットストレートでアドバンテージを得るために、近くにあるDRS検出ラインを越えるときに2番手になることを計画していることに気づき、ルイスがすぐ後ろにいたこともあり、彼は乱暴に69バールでブレーキを踏み、瞬間的に2.4Gの減速(高速でヘアピンにアプローチするときの急ブレーキゾーンでは、ほぼその半分)を行い、スロットルを固定した。
ハミルトンは彼に追突し、フロントウィングを破損し、レッドブルのリアボディワークの一部も壊れ、タイヤに切り傷ができた。ふたりともレースをリタイヤしなかったのはラッキーだった。もちろん、それでもマックスには好都合だっただろう。だが、ハミルトンは破損したフロントウィングで、どういうわけか十分なスピードを持っていた。
ハミルトン、フェルスタッペンに追突
メルセデス、フロントウイング破損によるハミルトンのタイムロスを公表
レース後、スチュワードは、この件に関してフェルスタッペンに10秒加算ペナルティを科し。最初のシケインをカットした件でも5秒ペナルティを受けていたので、2台目のメルセデスに乗るボタスに3位を奪われたオコンとの差はわずか5.8秒、そしてボタスは5.7秒差だった。
トップ2チーム以外の話題
エステバン・オコンは、ハンガリーの時と同様に、またしてもチャンスをうまくつかんだが、4位はほろ苦い結果となった。
マクラーレンのダニエル・リチャルドは見事に5位に入り、アルファタウリのピエール・ガスリーも同じく素晴らしいパフォーマンスで、フェラーリの2台を抑えて6位になった。シャルル・ルクレールは、レッドブルのセルジオ・ペレスとバトルしたが、ペレスはリタイヤし、カルロス・サインツはグリッド15番から8位まで挽回した。
F1キャリア終了まであと1レースとなったアントニオ・ジョビナッツィは、アルファロメオで見事9位に入り、最初の赤旗といくつかの小競り合いで不運に見舞われマクラーレンのランド・ノリスが10位、1ポイントを獲得した。
新しいサーキット
慌ただしく完成したジェッダ・コーニッシュ・サーキットは、照明の下で非常に素晴らしく見えた。完成度はいまいちだったとはいえ、8ヶ月間の工事であったという事実は、ほとんど信じらないほどだった。最速の市街地サーキットが良いターゲットなのかどうかはわからないが、ハイリスク・ロースキルのブラインドカーブが多く、広くて開放的なため、通常の市街地サーキットでは見られないような、ルクレール、ペレス、ラッセル、マゼピンが絡むクラッシュが起きた。
F2の3戦も何度も中断された。将来、どこかの時点で場所とサーキットが変わると予想されているが、このサーキットがその間に根本的に変わるとは思えない。
ここは、バクーのように、ある程度「慎重なアプローチ」が必要なトラックだが、大勢の観客が訪れた素晴らしいイベントだった。わたしも初めてサウジアラビアを訪れて嬉しい。F1のボス、ステファノ・ドメニカリは大胆にも、F1がこの国を訪れることについて言い訳をせず、さらにF1が文化の変化を促すことになると主張した。
レイアウトが変更されたアブダビのヤス・マリーナでは、21戦前の開幕戦と同様に、ハミルトンとフェルスタッペンとの差は0ポイントである。これは大変な決戦になりそうだ。
-Source: Sky Sports
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