ありえたかもしれない3つのレースと、実際に起きたひとつのレース。それぞれが、他とは全く異なるレースだった。そのレースをマーク・ヒューズが解説する。
マックス・フェルスタッペンが、見事なポール・ポジションを目前にした予選の最終コーナーでクラッシュしていなければ、このレースで圧勝していたかもしれない。ジェッダ・コーニッシュ・サーキットでのレッドブルのペースは、それほど速かった。土曜日のペースの鍵は、ルイス・ハミルトンのメルセデスにはできないような方法で、すぐにタイヤのスイッチを入れられたことだった。また、曲がりくねった第1セクターでのレッドブルのダウンフォースは、メルセデスの優れた直線パフォーマンスとほぼ同じくらいのラップタイムの価値があった。タイヤの使い方のおかげで、レッドブルは予選でメルセデスよりも速かった。
タイヤのスイッチを素早く入れられることと、ポール・ポジションのアドバンテージがあれば、手ごわいパッケージになり、フェルスタッペンはこのレースを完全に制覇することができたはずだった。
【動画】フェルスタッペンが最終コーナーのクラッシュでポールポジションを逃す:2021年F1サウジアラビアGP予選 <この2本動画は外に飛びます>
Quickest in the first two sectors of his final flying lap 🚀
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And then Max Verstappen's hopes of pole are dashed on the last corner in Q3 #SaudiArabianGP 🇸🇦 #F1 pic.twitter.com/Y6HyMjT1Dy
【動画】フェルスタッペンのアタックを目を丸くして見守るアロンソ
Anyone else have the EXACT same reactions as @alo_oficial in the closing moments of qualifying? 👀
— Formula 1 (@F1) December 4, 2021
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しかし、現実ではそんなことは起きなかった。彼はクラッシュのため、メルセデスが独占するフロントローの後ろからスタートした。ハミルトンが先頭、ヴァルテリ・ボタスが2番手を走るなか、レースの最初の10周は、ハミルトンは戦略的に簡単に勝つことができるかに見えた。ボタスは、ハミルトンがミディアムタイヤに負荷をかけることなく、毎周徐々にリードを広げることができるようなペースで走っていた。そしてフェルスタッペンは、ボタスが選んだペースで走らざるを得なかった。
10周目には、ハミルトンはフェルスタッペンに約4秒の差をつけ、その差は毎周、0.1~0.2秒ずつ広がっていた。ピットストップは17~25周あたりに予定されており、そのときのハミルトンのアドバンテージは、その2倍になっていたかもしれない。
実際には起きなかったこのレースでは、フェルスタッペンの最大の望みは、メルセデスよりも素早くタイヤのスイッチを入れられるマシンの能力を活用し、ボタスにアンダーカットのプレッシャーをかけることだっただろう。そして、ピットストップでハードタイヤに交換して、最後までそれを使うはずだったので、これは成功していた可能性が高い。
しかしその後は、かなり前からハミルトンが完全にレースをコントロールしていただろう。タイヤが一旦温まれば、メルセデスはレッドブルと同じくらい速かったし、ピットストップ時に大きくリードしていれば、ハミルトンはそのリードを維持していただろう。
ハミルトンとフェルスタッペンは、2回のリスタートでサイド・バイ・サイドでバトルし、最終的にどちらもフェルスタッペンが前に出た。
しかし、ミック・シューマッハがハースをクラッシュさせ、レースは、型通りのものから異例なものに変わり始めた。彼はターン23の障壁に激しくぶつかり、直ちにセーフティカーが出動した。これはメルセデスにとってジレンマだった。セーフティカーは、タイムロスの少ないピットストップを提供するし、戦略的に理想的なタイミングより早かったとはいえ、ハードタイヤは残る40周を走り切ることができた。
しかし、メルセデスがマシンをピットインさせることの危険性はふたつあった。障壁の修理が必要になれば、セーフティカーは赤旗に変わり、走り続けていたドライバーは全員、ピットストップをすることなくタイヤを交換することができる。メルセデスが両マシンをピットインさせれば、レッドブルは間違いなくフェルスタッペンを走らせ続けるだろう。
メルセデスは、障壁を修理するのではなく、元の位置に戻すだけでよい、すなわち赤旗は出ないと判断し、2台のマシンをピットインさせる判断を下した。もしハミルトンだけをピットインさせれば、フェルスタッペンも一緒にピットインしていたかもしれない。そうなるとボタスはセーフティカーの低速でもう1周走ることになっただろう。
あるいは、ハミルトンがタイヤを交換している間、ボタスがピットで待たなければならなかった場合、フェルスタッペンはピットボックスですぐにタイヤを交換できただろう。すると、2位をボタスから奪うことになっただろう。このふたつの状況では、フェルスタッペンはリスタートでハミルトンのすぐ後ろにつけ、早くスイッチが入るタイヤで、不意打ちの準備をしていたことだろう。
ミック・シューマッハが障壁にクラッシュ
メルセデスの解決策は、もちろん、ボタスを使って、ピットストップまでのインラップで、後続マシンを抑え、彼がピットストップをするときに、遅れずにタイヤ交換できるだけのクッションを置くことだった。実際にその通りになった。
この時点で、レッドブルは赤旗に賭けて、フェルスタッペンを走らせ続けてレースを先導させることに決めた。赤旗が出なかった場合、彼はピットストップまでに後続との差をつけていただろう。しかし、タイヤの寿命が尽きる前に、速い中団ランナーは抜くことができなかっただろう。つまり、メルセデス2台が先行するので、トラックに合流した後に何台かオーバーテイクしなければならなかっただろう。
しかし、障壁を検査した結果、修理する必要があると判断され、赤旗が出た。そして、スリリングなレースになった。フェルスタッペンはフリーでタイヤを交換し、「ポール・ポジション」から最初のリスタートを切った。
それでもハミルトンは勝利をおさめたが、攻撃的なフェルスタッペンのアタックを受けがらの優勝までの道のりは、彼が想定していたものより、ストレスが多く、物議を呼ぶものだった。シューマッハの事故により、タイトル争いをしているふたりが、47年ぶりに、同点でシーズン最終決戦に臨むことになった。
-Source: The Official Formula 1 Website
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