マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトン、クラッシュ!:2021年F1イタリアGP

スカイF1のマーティン・ブランドルは、最新のコラムのなかで、イタリアGPのルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンのクラッシュを専門家の目で評価する。フェルスタッペンはペナルティを受けたが、あれはレーシング・インシデントだったのだろうか?

ハミルトン対フェルスタッペン:クラッシュとペナルティの評価

もちろん、ルイス・ハミルトンは63回目の出走で初めて完走できず、2016年マレーシアのエンジン故障以来、わずか2回目のリタイヤであるが、ワールドチャンピオンシップを失う可能性もある。しかしスプリントと、クラッシュのあった26周までのメインレースから判断すると、いずれにしても、マクラーレンがそのペースとトラック順位で優勝した可能性が非常に高い。

ハミルトンとフェルスタッペンのクラッシュを理性的に分析するには、まず、奇妙で非常に恐ろしい結果を切り離さなくてはならない。この結果についてはのちほど取り上げる。このような接触のほとんどの場合、タイヤ・ウォールを擦ったり、サスペンションとボディワークが破損したり、マシンがスピンしたり、膨らんだりする結果になる。

今季のような並外れたチャンピオンシップではよくあるように、さまざまな事情によって、チャンピオンシップ争いをしているふたりが、タルマック上の同じ場所でバトルすることになる。マックス・フェルスタッペンがスタートでダニエル・リチャルドの後ろになったため、彼は予想されていたような差をつけることができなかった。また、ハミルトンはスプリントでスタートに失敗したため、メインレースを4番からスタートした。

さらにレッドブルはマックスのピットストップで、11秒と異常に時間がかかり、メルセデスはルイスのピットストップを着実に4秒でこなした。これらの要素が重なり、26周目にふたりは出会う運命にあった。

ルイスがピットを出ると、非常に長いピット出口ラインの右側を走る義務があった。安全上の理由から、このラインは、ピットから出てきたドライバーが、時速200マイル(322km)以上でヘビー・ブレーキングゾーンに向かっているマシンのレーシングラインに加わらないようにするためである。ルイスは、タイトであることを知らされていたはずであり、あとで彼が言っていたように、マックスがいることがわかっていたので、規約に基づいてマシン1台分の幅を残した。


26周目
ハミルトン、ピットイン、ハードに
ノリスの前に出れるか
タイヤ交換後にピット出口ラインを走行のルイス・ハミルトン、レーシングラインを走行しているランド・ノリスとマックス・フェルスタッペン:2021年F1イタリアGP
ノリスは無理で、フェルスタッペンの前か
タイヤ交換後にピット出口ラインを走行のルイス・ハミルトン、レーシングラインを走行しているランド・ノリスとマックス・フェルスタッペン:2021年F1イタリアGP
ハミルトン、フェルスタッペンの前に、ターン1後すぐシケイン
ランド・ノリス、ルイス・ハミルトン、マックス・フェルスタッペン:2021年F1イタリアGP

これは、レースとチャンピオンシップにとって重要な瞬間だった。両ドライバーとも、同じようなペースのマシンをオーバーテイクするのは非常に難しいこと、ふたりとも相手の前に出る必要があることを知っていた。

マックスは視界が開けており、新しいタイヤでアタックしているというアドバンテージがあった。ルイスは、ピットから出てきたばかりだったが、F1マシンはミラーや周辺視野で見るのが難しい。



ハミルトンとフェルスタッペン、並んだ! 前はノリス
ランド・ノリス、ルイス・ハミルトン、マックス・フェルスタッペン:2021年F1イタリアGP
シケインで接触、そのまま2台ともグラベルに
ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペン、シケインで接触:2021年F1イタリアGP

ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペン、シケインで接触:2021年F1イタリアGP

ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペン、シケインで接触:2021年F1イタリアGP

このインシデントは、スローモーションで何度でも再生することができるが、実際はすべてが非常に素早く起きる。ふたりのドライバーは経験豊富で、抜け目がなく、とても負けず嫌いで、仕事のコツや因果関係を熟知している。意識して考える時間はほとんどなく、反射神経と本能がすべてだった。

マックスはターン1でルイスの外側を回ったが、これはマシンを完全にコントロールした誠実な動きだった。タイヤをロックさせたりするような、ワイルドな操作ではなかった。彼はルイスの視界に非常に素早く現れたはずだし、これほど近づけば、ライバルの声も聞こえるだろう。

マックスが、エスケープロードに出るべきだったという意見には納得できない。なぜなら、ポジションを譲らなければならないので、その時には「動き」が終わっているからだ。ふたりとも、マックスがトラック上のシケインを走らなければならないことを理解していた。

これが予想される既定の行動であるなら、なぜ、エスケープロードにマシンにダメージを与えかねない厄介な「ソーセージ縁石」が大量に設置されているのだろう? なぜドライバーはこことふたつ目のシケインでそれを使ったことでペナルティを受けているのか?

ルイスは、マックスがランオフに向かうと予想して、ターンインした。実際、そのレース序盤や、イモラでは、ルイスがそうしていた。マックスは、十分なスペースがあることを期待したが、ルイスは、シルバーストンのレースでは譲らなかった。
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おそらくあまりに野心的な動きだったが、やり遂げなければならなかった。マックスは全力を尽くした。おそらく彼はブレーキを踏むか、スロットルを緩めるべきだったのだろう。でもそんな時間はなかったのだと思う。彼は追い越したかったのだ。

結局、ふたりのリアタイヤが絡んだが、それが多くを物語っている。おそらくルイスは、その瞬間に譲歩して、もう少しスペースを与えるべきだったのだろう。彼はターン2に向かってトラックの中心に向かって進んでいるところだったが、なぜ譲るべきなのか?

だからこそ、わたしは実況解説で、これはレーシング・インシデントだと言ったのだ。今でもそう思っている。スチュワードは、マックスにソチでグリッド3番降格ペナルティを与えた。マシンとトラックの膨大な量のデータ、各種のカメラアングル、両ドライバーへの聴取をもとに、彼らはルイスよりもマックスに過失があると判断した。
2021年09月13日
フェルスタッペンの「ソチでグリッド3番降格ペナルティ」を詳細解説:F1イタリアGP

モンツァのレースでふたりとも無得点だったことは、予想されたマシンのパフォーマンスを考えると、おそらくルイスよりもマックスが得をしたと言わざるをえない。

ふたりのワールドクラスのドライバーが、文字通りすべてのポイントが重要となるチャンピオンシップで、真っ向からぶつかり合っている。

F1の安全性向上の鍵

マシンが宙を飛んだ恐ろしい事故のあとは、「こんな事故が何度も起こっていないことに驚く」ような感じがする。ルイスのタイヤとの接触に加え、マックスのレッドブルが縁石に乗ったことで、垂直サスペンションとタイヤのサイドウォールがスプリングボードになり、マシンがメルセデスを横切りるように飛んだ。

ロールオーバーフープとハローが、見事にルイスの頭部を保護した。有難いことに、マックスの右リア・ホイールは、左リア・ホイールのようにパワーが伝わっていなかった。F1マシンは、フルサイズのレンジローバーと同じ面積があり、巨大で無防備な粘着性のタイヤが四隅についている。それを限られた場所でさらに高速で競い合う。どうしてもインシデントは起きる。
2021年09月14日
ハミルトンとフェルスタッペンのモンツァのクラッシュ、FIAが調査へ:両チーム代表とマイケル・マシのクラッシュに対するコメント

マックス・フェルスタッペンの右リアタイヤがルイス・ハミルトンのヘルメットを直撃:2021年F1イタリアGP

マックス・フェルスタッペンの右リアタイヤがルイス・ハミルトンのヘルメットを直撃:2021年F1イタリアGP

マックス・フェルスタッペンの右リアタイヤがルイス・ハミルトンのヘルメットを直撃:2021年F1イタリアGP

ルイス・ハミルトンの事故後のマシン、ロールオーバーフープとハローが破損している:2021年F1イタリアGP

ルイス・ハミルトンの事故後のマシン、ロールオーバーフープとハローが破損している:2021年F1イタリアGP

ハローのおかげで助かった命を数えるのは嫌なものだが、個人的な経験では、わたしは3度、飛んできたレーシングカーが頭にぶつかったことがある(1983年F3でアイルトン・セナ、1986年F1モナコGPでパトリック・タンベイ、1994年F1ブラジルGPでヨス・フェルスタッペン)。また、1984年モナコで、障壁とレーストラックに同じ事故で頭をぶつけたこともある。我々は事故を生き延びてきたが、この最新の安全装置は、特に今回のようなクラッシュや、昨年バーレーンでのロマン・グロージャンのようなクラッシュにおいて、その価値を大いに証明している。FIAとチームにおめでとう。
2020年12月04日
ロマン・グロージャンのクラッシュ、炎からの脱出、そしてバーレーンの奇跡:F1バーレーンGP ブランドルのコラム

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スプリント予選結果:2021年F1イタリアGP

ヴァルテリ・ボタスは、スプリントで優勝し、19番スタートから追い上げて3位表彰台に立ち、本当に印象的な週末を過ごした。ボタス自身、メルセデスでの最高のグランプリのひとつだと語っていたが、彼はメルセデスのシートを維持することができず、アルファロメオに移籍することが発表されたばかりだった。F1とはおかしなビジネスだ。

メルセデスに移籍するジョージ・ラッセルが着実に9位になり、ウィリアムズはグランプリ4戦で3回ポイントを獲得した。フェラーリは、シャルル・ルクレールが5位、カルロス・サインツが6位となり、まずまずの週末だった。アルファタウリは、ピエール・ガスリーがスプリントで不運なクラッシュ、レースでは2台のマシンに信頼性トラブルが発生し、ガスリーはリタイヤ、さらに角田裕毅はレースに出走もできず、惨めな週末を過ごした。

今回も、スプリント・フォーマットのおかげで、金曜日と土曜日を活気づけ、人工的なグリッド逆転や重量バラストを使わずに、メインレースの危機と結果に一役買っていると思う。2022年のレースマシンが、約束通りオーバーテイクにかなり優れているのなら、スプリント・フォーマットはもっとうまくいくだろう。

ハミルトンとフェルスタッペンの対決はまだまだ続く。激しく無情なレーシングになるだろう。彼らふたりが安全でいられるよう祈ろう。


F1イタリアGP:マーティン・ブランドルのコラム
マクラーレン優勝 | ハミルトンとフェルスタッペンのクラッシュ

-Source: Sky Sports

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