2021年F1ベルギーGP:セーフティカー先導でフォーメーションラップ

Sky Sports F1のマーティン・ブランドルが、大雨のベルギーGP、厳しい綱渡り、F1にできたかもしれない別の方法について意見を述べ、レーシングではない2周の「レース」のあとルールの再検討を求めている。

天候の面でこれほどまでに惨めな週末のモーターレース・イベントを思い出すのは難しい。まるで、上階で巨大なホースとスプリンクラーを操作している人が、傘が閉じられるのを見届けてから、もう一度、水を出しているような感じだった。

最近の洪水と雨の多い夏の影響で、この地域はすでに水浸しになっており、金曜日にはキャンプ場とその周辺は泥沼化していた。それでも忠実なファンたちは、いつもは絵に描いたように美しいこのレース場の土手や谷間を覆い尽くしていた。

2021年F1オランダGPの観客

予定されていたレース開始から4時間ほど経ってようやく表彰式が行われたが、まず象徴的な意思表示として、観客の中から3人の代表者を選ぶべきだった。決勝日に来場したファンに対しては、何らかの補償が行われることは間違いないだろう。



F1のサポートレース、F3、Wシリーズ、ポルシェ・スーパーカップは、同様にひどいコースコンディションの中でレースを行った。では、なぜこれらのシリーズではレースをすることができたのだろうという疑問が聞こえてくる。それは、1周あたり最低でも30秒は遅く、トップスピードもかなり低く、幅の狭いタイヤと少ないダウンフォースのために、水しぶきがあまり出ないからだ。

また、スーパースターのドライバーが、マシンからピットに送信される無線を使い、レース管制を含む世界中の何百万人もの人々がそれを聞いているわけでもない。レース・ディレクターであるマイケル・マッシの長靴を履いて1マイル歩いてみるといい。正直なところ、世界最高のドライバーたちがピットウォールを通して、トラック・コンディションはレースをするのは不可能であり受け入れられないと言ってきたら、あなたはゴーサインを出すだろうか?

今だからこそ言えることだが、私をはじめとする何百人ものF1ドライバーは、これよりもはるかにひどいコンディションのマシンやサーキットでレースをしてきた。1989年のアデレードでグリッドに並んでいた時のことだ。ドライバーたちは皆、水に浸かったサーキットに不満を感じていたが、バーナード、チャールズ、エクレストンたちがグリッドを歩いて、我々ひとりひとりに「マシンに乗れ、レースが始まるぞ」と言ったのを覚えている。

だから我々はマシンに乗り込んだが、アラン・プロストだけがすぐにピットインすることを選んだ。私は怖かったが、走り続けた。すると、取り憑かれたようにスピードを出していたアイルトン・セナが、水しぶきを上げながら私のブラバムの後ろに突っ込んできた。

1989年F1オーストラリアGP(アデレード):ドライバーたちは皆、水浸しのサーキットに不満を感じていた。
1989年F1オーストラリアGP(アデレード):ドライバーたちは皆、水浸しのサーキットに不満を感じていた。<このレースで、中嶋悟(ロータス)はファステストラップを出して4位入賞>


1994年の鈴鹿はとにかくひどかったが、レースは始まった。ピット・ストレートで左側に何かが光ったのを覚えているが、それはベネトンのジョニー・ハーバートが逆方向を向いていたからだとわかった。その直後、私はアクアプレーニングでコースアウトして、同じような別の事故に対応していたマーシャルにぶつかってしまった。芝生の上を滑って最終的に止まった後、マーシャルを助けに戻ると、彼の脛骨がオーバーオールからはみ出していた。

そうすると、たいていの場合「そう、そうだよね、おじさん、当時はそうだったよね」というような感想や言葉が出てくるので、つい黙ってしまう。

世界最高のドライバーが世界最高のマシンに乗り、エクストリームウェットと呼ばれるタイヤを履いているわけだ。となれば、「どんなコンディションでも、トラックに出て、栄光とお金を手に入れ、ショーをすべきではないか。F1が簡単なら誰にだってできるのなら、トラックサイドに詰め掛けたファンもいないし、自宅でネットやテレビで観戦する人もいないだろう」ということだろうか? おそらくそれは違うだろう。

その一方で、マーシャルやドライバー、トラックサイドのファンに対して、F1は彼らの命や健康を危険にさらさないようにする責任がある。なぜなら、もちろんどんなショーであってもそれだけの価値はないからだ。

また、無線通話の話に戻るが、ドライバーが大半サーキットは安全ではないと言っているのであれば、誰もそのようなリスクを取ることはできないし、これらの通話の重大性を今後も十分に考慮する必要がある。

これを変えるために何ができるだろうか? 最初は全周イエロー・フラッグにして、VSC(バーチャルセーフティカー)でマシンを走らせれば、セーフティカーの速度にそれほどとらわれずにトラックの水を取り除くことができたはずだ。少なくとも、高速で毎秒60リットルの水を排除できるマシンタイヤを使って、レースを進めることができただろう。

我々は通常、あらゆるコンディションでのセーフティカーによるリスタートにおいて、先頭マシンと後続の車列の両方を信頼している。問題は、自分のマシンやグリッドの位置によって、ドライバーが受けるレース・スタート時のプレッシャーが異なることだ。実際のセーフティカーは、走らせる前にFIAの最終承認を得れば常に短時間で再出動させることが可能だ。

2021年F1ベルギーGP

ル・マンでは、スパの2倍近い長さのコースの一部をコントロールするために、「スローゾーン」というシステムを採用している。60台以上のマシンと様々な能力を持つ180人以上のドライバーが参加するレースでは、このシステムはほぼ問題なく機能しているが、スローゾーンへの出入りの仕方によっては、F1が容易にコントロールできるようなアドバンテージを生み出すことができる。例えば、オー・ルージュのケメル・ストレートが問題であれば、そこを中心にスローゾーンを設定し、1周中に他の場所でマシンが十分な温度を維持するようにできるだろう。これにより、ショーを続け、水たまりができるのを防ぐことができる。

F1のように、ダブル・イエローフラッグでエリアをカバーするだけではうまくいかない。ドライバーはやはり高速で走行しており、スロットルの適切な閉じ方の解釈が異なるからだ。

幅2メートルのマシン、幅広のオープン・ホイールのタイヤ、開放コックピットでは、視界を確保するには、速度を落とす以外にできることはあまりないが、急に減速すると危険である。

肝心なのは、水の上でアクアプレーニングが発生し、ドライバーが自分の行く先を見通すことができなければ、そこには技術も勇気も関係ない。ただ運任せで、避けられないクラッシュを待ちかまえ、誰も傷ついたり死んだりしないことを祈るしかないということだ。そして、それこそが日曜日の我々の姿だった。

私は99ページにも及ぶF1競技規約をかなり定期的に読んでいるのだが、ちょうど前の週に、ル・マンでたまたま息抜きの時間があったので、規約を読んでいた。レース日の朝、クロフティ*と私は、セーフティカー先導スタートになるという点で意見が一致した。私がスカイF1番組のオープニングのためにカメラの前に立っている間、クロフティが手順を確認してくれた。<*スカイ・スポーツのF1プレゼンター>


私は25年にわたってF1を解説してきたが、レースのステータスについて、つまり正式にスタートしたのかどうか、スタート延期のメッセージのあと、あと何周残っているのか、これほど混乱したことはなかった。

私にとって、手順全体に対する「スタート遅延」は、「スタート中止」と全く違う意味である。例えば、フォーメーションラップが行われたが、あるドライバーがグリッド上でエンストした場合、車列はもう1周する。今回は、レースがスタートしなかったのに、44周のレースが39周になった。多くのチーム・マネージャーが、実際の状況を理解しようとレース管制に電話したのも当然だった。

その間ずっと、(規約による)3時間の時計のカウントダウンが行われていたのだが、その時計を見ることはできなかった。ただしスチュワードが不可抗力を理由に、少しでも娯楽とレース周回が見られることを期待して、残り1時間のところで時計を止めた。

レース再開を待つ間、レッドブルは、セルジオ・ペレスがグリッドに向かう途中でクラッシュさせたマシンを修理し、最終的にピットレーン・スタートを認められた。ただし彼はすでに5周遅れだったが、レースは始まっていなかった。

2021年08月30日
F1ベルギーGP決勝 マックス・フェルスタッペン優勝
クリスチャン・ホーナーがマイケル・マッシにペレスがレースに出走できるかどうかの質問に対して、マッシュは「無理だ」と言っていたが、ホーナーが「なぜ」と問うと、マッシ「スチュワードに確認してみる」
ぺレスがスタートできるようだ、あとはマシン次第
マイケル・マッシ「レースが再開された場合、セーフティカー先導分を差し引いた39周になる」
マイケル・マッシ「レースは15時にスタートするはずだったので、3時間ルールにより18時までに終わらないといけない」とメルセデスに説明
17時、スタート予定から2時間が過ぎた、3時間ルールだと残り1時間。
3時間ルールだが、残り1時間で時計を止めた(スチュワードが決定)。
これで18時からでもレースができる。
スチュワードの決定は下記規約を適用(拡大解釈したようだ)
FIA国際競技規約 11条9項3:スチュワードの裁量で、不可抗力を理由のより、レースの一時中止を決定

手順のすべてが規約に従っていたと言わざるを得ないが、規約は不可思議、そう、理解しがたいものであり、単純化する必要がある。F1での問題は、どんな規約変更も、意図しない結果や機会をもたらすので、結果的にこれほど複雑になってしまっているのだ。規約はときおりリセットする必要があるが、その時がきた。

2021年09月01日
F1委員会、ベルギーGPを受けてルール見直し:ジャン・トッド「何を学び、何を改善するべきか検討する」

セーフティカー先導でわずか2周しただけで、事実上、前日の予選結果をお祝いすることになった。スタートラインに立てば、ハーフポイントが与えられ、表彰式が行われた。予選自体は素晴らしかったし、とてもチャレンジングだったので、何らかのメリットはあった。

2021年F1ベルギーGP表彰式:1位マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)2位ルイス・ハミルトン(メルセデス)3位ジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)

ジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)は初のF1表彰台:2021年F1ベルギーGP
ジョージ・ラッセルは初のF1表彰台


今回はF1史上6回目のハーフポイント(レース距離の75%未満)のレース、そして最も短いレースだった。他に短いレースとしては、1975年スペイン(事故)、1975年オーストリア、1984年モナコ、1991年オーストラリア、2009年マレーシアがあるが、いずれも雨が原因だった。

F1がコントロールできない状況によるものだったので、2005年のインディアナポリスのように、解決策を見つけられたはずなのに、血迷って6台のマシンだけが出走したような恥ずかしさはなかった。しかし、少なくともあの日はレースができた。

皮肉なことに、赤旗終了時のカウントバック手続きのため、公式結果は1周のレースとして発表されたが、これがこの日を総括している。私はレース後ノーフォークに戻るためバイクに乗って西に向かったが、日が暮れる前に雨が止むことはなかったと断言できる。

レースを心待ちにし、お金を無駄にしたファンの皆さんには申し訳なく思う。でもできることは何もなかったし、F1とそれを支える大勢のスタッフも、翌日のレースの準備はできないのだ。

F1は、パンデミックの間、素晴らしい娯楽を提供してきたので、F1がザントフォールトに向かうときも、評判があまり落ちていないことを願っている。

-Source: Sky Sports